シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月10日、NTUの研究者らが血液中の免疫細胞の機能的挙動を標識なしで迅速に解析できるマイクロ流体技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Scienceに掲載された。

ホウ・ハンウェイ(Hou Han Wei)准教授(左から二人目)と研究チームメンバー
(出典:NTU)
免疫細胞の動きや変形、刺激への応答といった機能的挙動は炎症状態や疾患進行を反映する重要な指標であるが、従来の臨床検査は主に細胞数の測定に限られ、こうした質的な違いを捉えることは難しかった。特に2型糖尿病(T2DM)では、好中球の活性化や好中球・血小板凝集体(NPA)の形成が炎症や血管障害に関与するが、通常の血液検査では把握しにくい。
NTU機械・航空宇宙工学部(MAE)およびリーコンチアン医科大学(LKCMedicine)のホウ・ハンウェイ(Hou Han Wei)准教授の研究チームは、ディーン流を用いた分離(DFF)とインピーダンス・変形能サイトメトリーを組み合わせた手法を開発した。抗体標識や複雑な前処理を必要とせず、200µL未満の血液から40分以内に解析できる。1分間に1000細胞以上を処理し、1細胞あたり最大9種の生物物理パラメータを取得することで、白血球の機能的な違いを高精度に捉える。また、簡便な構成により低コストな臨床検査技術としての応用も期待される。
本技術は動物モデルおよびヒト試料で検証され、心血管疾患(CVD)を有するT2DM患者では免疫細胞の活性化がより顕著であることが確認された。従来の白血球数では差が見られない場合でも、本手法では炎症状態の違いが明確に識別され、主成分分析における識別性能はAUC0.971に達した。
今後は大規模な臨床検証が重要な課題となる。今回の研究は概念実証段階であり、識別性能の高さが示された一方で、多様な患者集団や複数の医療機関での検証を通じて、実用化に必要な信頼性を確立する必要がある。また、研究チームはプロテオミクスやメタボロミクスとの統合も進めており、代謝性疾患における免疫機能異常のより包括的な理解を目指している。
ホウ准教授は「免疫細胞の挙動を読み取る科学は以前から知られていましたが、それを臨床で使える形にすることが課題でした。本技術はそのギャップを埋めるものです」と述べ、基礎研究の知見を医療現場で活用可能にした点に意義があると強調した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部