シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月13日、地球の地殻に存在するはずとされながら不足している「失われた鉛」について、その一部が地球深部のマントルに存在する可能性があることを示したと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

サイモン・レッドファーン(Simon Redfern)教授(右)と研究チームメンバー
(出典:NTU)
鉛同位体は、岩石の年代測定や地殻・マントル・核の間の物質移動の解明に用いられる。鉛には4種類の同位体があり、このうち鉛206、207、208はウランやトリウムの放射性崩壊によって生成される一方、鉛204は地球形成時から存在する非放射性の同位体である。観測では、地表の岩石に含まれる放射性起源の鉛が理論値より多く、鉛204が不足している。この不一致は「失われた鉛のパラドックス」と呼ばれる。従来は古い鉛が地球形成時に核へ取り込まれたとする説が提案されてきたが、その移動過程や長期的な保持は十分に説明されていない。
地球内部は直接観測することができないため、NTUアジア環境学部(ASE)のサイモン・レッドファーン(Simon Redfern)教授らの研究チームは、計算機シミュレーションを用いて鉛と硫黄の化合物の挙動を解析した。その結果、硫化鉛(PbS)がマントル深部の高圧条件下で安定であり、約5000℃でも固体として存在し得ることが示された。このことは、古い鉛がマントル深部に長期間保持され、地殻に現れない貯蔵領域として存在する可能性を示唆する。
さらに、硫黄が豊富な条件下では、多硫化物PbS2およびPbS3が形成され得ることが予測された。PbS2は固体として存在する一方、PbS3は融点が低く、条件によっては液体となる。この液体が上昇する過程で鉛を運搬することにより、火山岩中に古い鉛が観測される現象を説明し得るとした。
研究では構造予測手法CALYPSOを用いて原子構造と高温条件下での挙動を解析し、これらの化合物が熱力学的に安定で、地球内部で長期間存在し得ることが示された。レッドファーン教授らは、硫黄が地球内部の金属分布に関与することを踏まえ、今回の結果が地球の化学進化の理解に加え、火星など他の岩石惑星の化学進化の理解にも関連する可能性があるとした。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部