この記事は5月4日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は5月4日、NUSの研究者らが、細菌内で連携して働く複数の遺伝子をより速く改良し、プラスチック原料を利用する細菌を作る新たな進化プラットフォーム「溶菌を利用した選択・進化技術(LySE)」を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Microbiologyに掲載された。

ジュリアス・フレデンス(Julius Fredens)助教授(右)とオン・シュージアン(Shujian Ong)氏(左)
プラスチック廃棄物を微生物で有用な化学物質に分解するには、複数の遺伝子を協調的に働かせる必要がある。LySEは、大腸菌に感染するT7バクテリオファージを改変し、改良対象の遺伝子群を載せた小さな環状DNA「ファージミド」に多数の変異を入れて選抜する仕組みである。最大約40000塩基のDNAを扱えるため、細胞内の重要な化学プロセスに必要な遺伝子群の多くを対象にできる。
研究を率いたNUSヨンローリン医学部の生化学部門および同医学部の臨床と技術の革新のための合成生物学(SynCTI)プログラムのジュリアス・フレデンス(Julius Fredens)助教授らは、PETプラスチックの製造に使われるエチレングリコールを大腸菌が栄養源として利用できるようにする5つの遺伝子群でLySEを実証した。5回の進化サイクル後、最も性能の高い株は、エチレングリコールを唯一の栄養源とした場合にバイオマスを50.9%多く生産した。
博士課程学生のオン・シュージアン(Shujian Ong)氏は、LySEがT7ファージを利用することで、従来のファージ支援連続進化法の課題である、扱えるDNAが約8000塩基に限られる点と、細菌が標的遺伝子ではなく自らのゲノムを変異させて選抜をすり抜ける点を回避できると説明した。ファージミドは、通常の細菌のDNA複製系より約160000倍変異を起こしやすいT7 DNAポリメラーゼで複製されるが、この高いエラー率によりファージ自身も弱まり、制御不能な拡散を防げるという。

研究で使用された大腸菌培養物およびその他の実験材料。左端は、遺伝子操作されたファージの3Dプリントモデル。
(提供:いずれもNUS)
シーケンシングの結果、LySEは遺伝子の発現量を制御する調節領域とタンパク質をコードする遺伝子の双方を変化させていた。フレデンス助教授は、改良が特定の遺伝子群内に収まるため、高度に最適化された経路を別の細菌に移すことが容易だと指摘する。研究チームは、医薬品向け生合成経路、環境汚染物質を分解する微生物、CO2固定のための合成代謝経路などへの応用を見込んでいる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部