この記事は5月12日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は5月12日、NUSの研究者らが、がん細胞内のエネルギー中心であるミトコンドリアに治療薬を直接届ける金ナノ粒子を特定するハイスループット手法を開発したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。

アンディ・テイ(Andy Tay)助教授(右)と研究チームメンバー
(提供:NUS)
NUSデザイン工科カレッジ医用生体工学科およびNUSヘルス・イノベーション&テクノロジー研究所に所属するアンディ・テイ(Andy Tay)助教授が率いる研究チームは、各金ナノ粒子製剤に固有のDNAバーコードを付け、次世代シーケンシングで体内分布を追跡した。形状、サイズ、標的化リガンドが異なる30種類のナノ粒子設計を、腫瘍を持つ前臨床モデルにまとめて投与し、全身の臓器、腫瘍細胞の種類、最終的にはミトコンドリアまで、各設計がどこに蓄積するかを解析した。
この多重化手法により、従来の1種類ずつ調べる実験に比べ、生体内モデルの使用数を約30分の1に抑えながら、1000件を超える生体内データを得た。先行研究では6種類の設計を組織レベルで比較していたが、今回はライブラリーを大幅に拡張し、細胞・細胞内レベルの挙動まで調べた。葉酸で修飾した大型球状粒子は、血流中の循環を長くする保護的なタンパク質層の作用もあり腫瘍に強く蓄積した。一方、大型立方体粒子は、クラスリン媒介エンドサイトーシスを通じて腫瘍細胞に効率よく入り、ミトコンドリアへの送達に優れた。
研究チームはさらに、治療試験に用いた立方体金ナノ粒子に、ミトコンドリアの遺伝子発現を妨げる低分子2本鎖RNA(siRNA)を搭載し、近赤外光で熱を発生させる光熱療法と組み合わせて試験した。前臨床研究では、ミトコンドリア標的RNA治療と穏やかな光熱療法の併用により、腫瘍が99%退縮した。また、腫瘍関連マクロファージを腫瘍と戦う状態に変える可能性も示された。同助教授は「ナノ粒子を体内の正しい場所に届けるには、複雑な障害物コースを通過させるようなものです。DNAバーコードにより、多数の設計を生体内で同時に追跡できます」と説明。さらに、「ナノ粒子設計は形状やサイズのような単一因子だけで決まるのではなく、複数の特性が複雑に相互作用します」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部