シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月20日、国立ヘルスケアグループ(NHG)の精神衛生研究所(IMH)とNTUリーコンチアン医学部(LKCMedicine)の研究者らが、精神病リスクの高い若者の発症可能性を予測する血液由来のプロテオーム・バイオマーカーを特定したと発表した。研究成果は学術誌Translational Psychiatryに掲載された。

(出典:NTU)
精神病は、幻覚、妄想、思考のまとまりにくさを特徴とし、思春期から成人期早期に多い。シンガポールでは18歳以上の43人に1人が、統合失調症を含む精神病の診断を生涯で受けている。今回のバイオマーカーは、血液成分である血漿(けっしょう)中を循環するタンパク質の特定パターンで、疾患リスクを示す客観的指標となる可能性がある。
研究は、IMHが2008年に開始した「Longitudinal Youth at Risk Study」(LYRIKS)のデータを用いた。LYRIKSを率いたNHGのグループ最高研究・イノベーション責任者で、IMH上級コンサルタント兼臨床科学者のジミー・リー(Jimmy Lee)准教授によると、LYRIKSでは14~29歳の若者173人を追跡し、このうち65人が超高リスクと判定された。2年間の追跡で13人が精神病と診断された。
同准教授とNTU医療AIセンターのウィルソン・ゴー(Wilson Goh)助教授が共同主導した研究チームは質量分析に基づくプロテオーム解析で1757種類のタンパク質を調べ、発症を予測する5つのモデルを機械学習で作成、検証した。白人集団の先行研究に基づく2モデルはLYRIKSデータセットで75~81%の精度を示し、LYRIKSデータから開発した3モデルは最大96%に達した。特定されたタンパク質は両集団で異なったが、免疫機能など共通する生物学的過程が確認された。
LKCMedicine研究員で筆頭著者のチャン・ウェイシン(Chan Wei Xin)博士は、精神病発症の予測モデルは対象集団に合わせることで有用性が高まる一方、白人集団由来のタンパク質バイオマーカーもアジア系集団で一定の予測性能を示したと説明した。同准教授は、今回のバイオマーカーが精神病リスクの臨床評価を補完する可能性があるとみている。研究者らは、臨床実装前に、異なる集団を対象とした大規模で独立した検証が必要だとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部