シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月27日、NTUと英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究者らが、院内感染に関わる治療困難な細菌が、他の細胞を攻撃する分子レベルの装置に毒素を装填する仕組みを解明したと発表した。研究成果は学術誌Nature Microbiologyに掲載された。

アラン・アンジュ・マリー・フィルー(Alain Ange Marie Filloux)教授
(出典:NTU)
対象となった緑膿菌は、免疫機能が低下した人や嚢胞性線維症など慢性肺疾患の患者に重い感染症を起こし得る日和見病原体で、複数の抗生物質への耐性でも知られる。同菌はVI型分泌系(T6SS)と呼ばれる注射器のような仕組みにより、競合する微生物や宿主の免疫細胞にさまざまな毒性タンパク質を送り込む。これにより、体内の有益な細菌を傷つけて競争で優位に立つ一方、感染排除に働く免疫応答も妨げる。
研究を共同で率いたのは、NTUシンガポール環境生命科学工学センター(SCELESE)バイオフィルム・健康クラスター研究ディレクターのアラン・アンジュ・マリー・フィルー(Alain Ange Marie Filloux)教授と、ICL自然科学部生命科学科のティアゴ・ディアス・ダ・コスタ(Tiago Dias da Costa)准教授である。研究チームは、生化学的解析とクライオ電子顕微鏡解析により、毒素がまずHcpというタンパク質に捕捉され、さらに5つのHcpタンパク質が毒素を取り囲んでリングを形成することを突き止めた。毒素を載せたリングは多数積み重なって長い管を作り、緑膿菌では最大約100個のリングを含めることができる。装置が注射器の押し子のように収縮すると、管内に積み重なった毒素搭載リングが押し出され、標的細胞に毒素が送達される。
同教授は「この細菌は単一の毒素を発射するだけではありません。微小なやりに毒素のカクテルを装填し、一撃で発射します。将来、この装填段階を阻止できれば、細菌を武装解除し、病気を起こす力を弱める方法につながる可能性があります」と話す。研究者らは、T6SSの装填と発射を制御するシグナルや分子相互作用を次に調べるとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部