この記事は6月29日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は6月29日、同大とテマセク生命科学研究所の研究者らが、養殖魚を神経壊死ウイルス(NNV)から守る魚用経口ワクチンを開発したと発表した。研究成果は学術誌Fish & Shellfish Immunologyに掲載された。

NUS生物科学科のヤン・ダイウェン(Yang Daiwen)教授(左)とホン・ホイイー(Hong Hui Yee)氏(右)らの研究チームは、養殖魚を致死性の神経壊死ウイルスから守る経口ワクチンを開発した。
水産養殖は重要な食料供給源であり、疾病管理が大きな課題となっている。NNVによる疾病は、養殖魚を大量死させ、水産養殖業に大きな経済的損失をもたらす深刻な脅威の一つである。従来のワクチン接種は魚に1匹ずつ注射するためストレスを与え、大規模実施や仔魚・稚魚への投与に適さない。一方、経口ワクチンは飼料に直接混ぜることができ、より実用的で省力的、費用対効果の高い方法となる。

経口ワクチンは魚の飼料に混ぜることができ、神経壊死ウイルスに対する免疫を高める、効果的で投与しやすい解決策となる。
研究チームは、NUS理学部生物科学科のヤン・ダイウェン(Yang Daiwen)教授が率い、同学科のホン・ホイイー(Hong Hui Yee)氏らが参加した。ワクチンは、魚の免疫系を訓練する「偽装」ウイルスと、その訓練モジュールを安全に届ける送達媒体の2要素で構成される。研究者らはNNVの外殻であるカプシドタンパク質からウイルス様粒子(VLP)を作製した。VLPは中空で感染性がなく、遺伝物質を含まないため発病させないが、外見上NNVと同じに見えるため、魚の体内で免疫応答を誘導する。
VLPの担体には、安全な細菌ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)を選んだ。VLPを細菌細胞内に封入し、魚の消化器系を通過する間に保護して、免疫応答を誘導できる腸まで届ける。生菌や加熱処理菌で試験した結果、次亜塩素酸ナトリウムで細菌を不活化すると、細菌内でVLPの構造と溶解性が保たれ、免疫系へ効果的に送達できることが分かった。

NUS生物科学科のヤン・ダイウェン(Yang Daiwen)教授(右)とホン・ホイイー(Hong Hui Yee)氏(左)が、ワクチンに必要な遺伝物質を作製している。この新しい魚用経口ワクチンは、魚の免疫系を訓練する「偽装」ウイルスと、送達媒体として機能する細菌という、2つの中核的な生物学的構成要素で設計された。
(提供:いずれもNUS)
このワクチンは、精製VLPを魚に直接与える方法より抗体と中和抗体のレベルを2倍に高めた。魚をNNVに7日間さらした後の脳内ウイルス量も約300分の1に減少し、魚の体内で増殖するウイルス量を大幅に抑えた。仔魚期には同疾病の死亡率がほぼ100%に達し、生き残っても成長が低下する。同教授は、NNV感染に簡便で効果的な治療法はなく、ワクチンによる予防が最も有望な戦略だと述べた。同ワクチンはハタ、欧州シーバス、アジアシーバスなど経済的に重要な魚種に適用できる。チームは3件の特許を出願し、ハタなどでの実地試験に向け産業界と協力する計画だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部