シンガポールの南洋理工大学(NTU)は7月1日、同大学の研究者らがリチウムイオン電池の初回充電時に生じるリチウム損失について、固体電解質界面(SEI)の形成が止まる時期を制御して、損失を抑える新たな戦略を示したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。

リチウムイオン電池では、電解液中のリチウムイオンが正極と負極の間を移動して充放電を担うが、初回充電時の化学反応で薄い保護層のSEIが形成される。この層は電解液のさらなる分解を防ぎ、出力密度、寿命、安全性の向上に不可欠な一方、活性リチウムイオンを不可逆的に消費し、貯蔵できるエネルギー量を減らす。
NTU材料科学工学部(MSE)のチェン・シャオドン(Chen Xiaodong)特別大学教授は、従来の多くの戦略は電解液設計や添加剤工学でSEI形成を調整するものだが、安定した界面形成にはなお多くのリチウム消費が必要で、外部リチウム源の導入はセル製造を複雑にし、安全上の懸念もあると説明した。
研究チームのリサーチフェロー、ツァオ・ションカイ(Cao Shengkai)博士は、SEI形成は本来、初期反応物がより安定な成分に置き換わることで反応が止まる自己停止型の過程だと指摘した。研究チームは、電解液の分解生成物である五フッ化リン(PF5)が電極表面のヒドロキシ基を攻撃し、SEIを不安定化させ、再形成と追加のリチウム消費を招くことを主要因として特定した。

(出典:いずれもNTU)
そこで、ヒドロキシ基を多く含む二酸化チタン(TiO2)をモデル系に、求核的フッ素化で表面ヒドロキシ基を事前にフッ素化基へ変換した。その結果、有機SEIの形成が大幅に減り、安定性に必要なフッ化リチウムに富む内側SEI構造を保ちながら、薄く安定した界面層が得られた。フッ素化TiO2負極の平均初期クーロン効率(ICE)は92.1%で、未処理負極の74.1%を上回った。パウチセル試験でもICEは67.5%から83.7%に向上した。研究チームは、SEIの組成だけでなく、形成停止の時期を制御することが不可逆的なリチウム損失の低減に重要だと結論付けた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部