この記事は7月6日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は7月6日、同大学のがん科学研究所(CSI Singapore)の研究者らが、DNA上の特定領域に集まり、協調して働くタンパク質群を特定するとともに、その存在量を測定できる新手法「qChIP-MS」を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。
細胞内のDNAは、クロマチンという構造に収納される。クロマチンは、遺伝子のオン・オフを決めるほか、ゲノムを損傷から守り、細胞のストレス応答にも影響する。その制御異常は、がんや老化と関連する。従来技術は一度に1種類のタンパク質を調べるため、ゲノムの特定位置で協調するタンパク質ネットワーク全体を捉えることは難しかった。
研究チームは、クロマチン免疫沈降法(ChIP)と質量分析法(MS)を一つの解析手順に統合した。qChIP-MSでは、選択したクロマチン領域を濃縮し、そこに結合するタンパク質を特定すると同時に、それぞれの存在量を測定できる。チームは、染色体末端を保護し、老化やがんに関わるテロメアで検証した。その結果、既知のテロメア関連タンパク質を正しく特定し、組織や特定のゲノム領域を含む多様な生物試料に適用できることを示した。また、解析手順を比較・評価し、クロマチン研究で長年の課題だった偽陽性を減らす方法も開発した。
筆頭著者のヨン・ワイ・カン(Yong Wai Khang)博士は「DNAは、単一のタンパク質が単独で働くことで制御されているのではありません。多くのタンパク質が、協調した複合体として働いています。私たちは、ゲノムの特定領域に存在する全ての関係者を捉える実用的な方法を開発したいと考えました」と述べた。
チームは既にqChIP-MSを用い、一部のがんで働く、テロメラーゼに依存しないテロメア伸長機構「Alternative lengthening of Telomeres (ALT)」に伴うクロマチン変化を調べている。今後は、より少量の試料や、限定されたゲノム領域にも適用できるよう感度を高める。責任著者でCSI Singapore主任研究員のデニス・カッパイ(Dennis Kappei)助教授は「基礎生物学や、がんなどの疾患を研究する科学者にとって、有用な研究手段になることを期待しています」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部