この記事は7月28日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は7月28日、同大学の研究者らが電球の発熱原理を応用して電気で高温の化学反応を効率的に進める小型反応器を開発し、アンモニアからの水素製造、廃プラスチックのリサイクル、メタンから有用な化学物質への変換という3つの用途で実証したと発表した。研究成果は学術誌Nature Chemical Engineering、Nature Communications、Nature Sustainabilityに掲載された。

NUS水素・炭素イノベーションセンター(CHCI)所長のヤン・ニン(Yan Ning)教授(右)と研究チームメンバー
一般的な電球は光より熱を多く発生させるため、効率が低いとされる。開発した反応器は、白熱電球内部の線に似た細い金属フィラメントに電気を流し、反応器全体ではなくフィラメントに熱を集中させる。周囲をはるかに低い温度に保ちながら、1200度を超える温度まで急速に加熱できる。加熱する部分が小さいため、反応器を小型に保ちながら化学反応を効率的に進められる。電気で稼働することから、再生可能エネルギーにも対応できる。

電球に着想を得た反応器の拡大写真。電気で細い金属フィラメントを加熱し、重要な化学反応の一部に必要な高温を発生させる
(提供:いずれもNUS)
研究チームはまず、貯蔵・輸送しやすく、水素の運搬手段として期待されるアンモニアを水素と窒素に分解した。アンモニアを効率的に水素へ戻すことは依然として課題だが、ほぼ完全な変換を達成した。反応器は、同量のアンモニアを処理する従来システムより大幅に小さい。現在、産業界のパートナーと将来のアンモニア利用型エネルギーシステムへの応用を検討している。
さらに、包装材や消費者向け製品に広く使われるポリエチレンとポリプロピレンを、新たなプラスチックの原料となる、より単純な化学的構成要素に分解した。これはプラスチックの循環型経済を支え、埋め立てや焼却に回る廃棄物を減らす可能性がある。天然ガスの主成分であるメタンについては、反応器内の異なる温度領域を利用し、水素とともに製造業で使われる有用な化学物質へ変換した。この設計により、プロセスの効率と生成物の品質の双方を向上させた。
研究を率いた同大学の水素・炭素イノベーションセンター(CHCI)所長で、NUSデザイン・工学部化学・生体分子工学科のヤン・ニン(Yan Ning)教授は「目標は低炭素な未来への移行を支える実用技術の開発です。身近な家庭用品に着想を得た単純なアイデアを、化学産業のさまざまな課題への対応に応用できることを示しました」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部