シンガポールの南洋理工大学(NTU)は7月27日、NTU主導の国際研究チームが、治療困難ながん細胞がポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬への耐性を獲得する新たな仕組みを発見し、TEX264というタンパク質が治療標的となる可能性を示したと発表した。研究成果は学術誌Nature Cell Biologyに掲載された。

培養プレートで増殖させたがん細胞を確認する、シンガポールの南洋理工大学(NTU)のクリスティアン・ラマダン(Kristijan Ramadan)教授とジョアン・ロー(Joanne Loh)博士課程学生。ラマダン教授が率いる研究チームは、がん細胞がDNA修復とオートファジーの仕組みを乗っ取って結び付けることで、多くの薬剤で死滅しにくくなることを発見した
PARP阻害薬は、DNA修復酵素PARP1をDNA上に固定してDNA損傷を蓄積させ、がん細胞を死滅させる。しかし、乳がんや卵巣がん患者の約40~70%では腫瘍が耐性を獲得する。研究チームは、がん細胞がTEX264を利用してオートファジーを引き起こし、DNA上に捕捉されたPARP1を除去・分解することを突き止めた。これによりDNAのさらなる損傷が抑えられ、がん細胞はPARP阻害薬による治療を受けても生き延びていた。

NTU主導の研究チームがトリプルネガティブ乳がん細胞をPARP阻害薬とDNA損傷を誘発する化学物質で処理したところ、細胞のDNA(青色)上にPARP1酵素(緑色)が見つかった(左)。一方、TEX264タンパク質の働きを阻害した細胞では、DNA上により多くのPARP1分子が蓄積した(右)。この結果は、TEX264がDNAからPARP1を除去する働きに関与していることを示唆する。
(出典:Hoslettら、Nature Cell Biology、2026年6月、第28巻第6号、1219~1234ページ、DOI:10.1038/s41556-026-01961-5を一部改変。CC BY 4.0に基づき使用)
TEX264の機能を阻害したがん細胞をPARP阻害薬で処理すると、複数の損傷指標でDNA損傷が40~110%増加し、薬剤耐性が解消され、細胞は死滅しやすくなった。さらに、スウェーデンのSCAN-B(Sweden Cancerome Analysis Network-Breast)プロジェクトのトリプルネガティブ乳がん患者700人を分析したところ、TEX264量が少ない患者は、多い患者より10年間生存する可能性が28%高かった。
NTUリーコンチアン医学部(LKCMedicine)のアルビン・ウェイ・ティエン・ン(Alvin Wei Tian Ng)博士は、TEX264量と患者の生存との関連を明らかにした。研究を率いた同学部のクリスティアン・ラマダン(Kristijan Ramadan)教授らは、今回特定した仕組みを「DNA損傷部位のオートファジー」、または「ヌクレオファジー」と命名した。

共焦点顕微鏡に試料をセットする、NTUのクリスティアン・ラマダン教授とジョアン・ロー博士課程学生。この顕微鏡は、ラマダン教授が率いる実験で、がん細胞を可視化するために使用された
(出典:いずれもNTU)
今後は、臨床使用が承認されているオートファジー阻害薬のクロロキンやヒドロキシクロロキンをPARP阻害薬と併用できるか、患者を対象に検証する必要がある。同教授は「今回の発見は併用療法の可能性を浮き彫りにし、今後の臨床試験を進める強力な根拠となります」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部