2026年09月
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光でピリジン環のアリール基移動、創薬空間を開拓 シンガポール南洋理工大学

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は8月6日、同大学の研究者らが光レドックス触媒を用い、ピリジン環上の既存のアリール基を、従来は導入が難しかったメタ位へ直接移す手法を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Synthesisに掲載された。

ユージン・ユー・クン・タン(Eugene Yew Kun Tan)博士(左)と、千葉俊介(Shunsuke Chiba)教授(右)
(出典:NTU)

ピリジンは多数の医薬品に含まれる重要な複素環骨格である。異なる官能基を加えることで、抗菌・抗真菌薬、抗マラリア薬、抗腫瘍薬、糖尿病治療薬など、強い治療効果を持つ化合物を作ることができる。一方、環固有の電子的性質により、従来の化学反応では新たな官能基がオルト位(C2)かパラ位(C4)へ向かう。芳香族炭化水素に由来するアリール基をメタ位(C3またはC5)へ導入することは、長年、合成上の大きな障害となっていた。

研究の筆頭著者で、NTU化学・化学工学・バイオテクノロジー学部(CCEB)のユージン・ユー・クン・タン(Eugene Yew Kun Tan)博士は、同学部の千葉俊介(Shunsuke Chiba)教授の指導の下、研究チームとともに、ピリジン環上の既存のアリール基を別の位置へ移す方法を開発した。分子を一から合成したり、新たな官能基を導入したりするのではなく、既にあるアリール基を環上で移動させる。まず有機光触媒と青色光による一電子移動で、安定な芳香族構造を一時的に崩す脱芳香族化を起こし、窒素原子を含む反応性の高いラジカル中間体を生成する。続いて1,2-アリール転位により、アリール基を隣接する炭素原子へ移し、再芳香族化して変換を完了する。例えばC4のアリール基をC5へ転位できる。

この手法は、パラジウムなど高価な遷移金属を使う従来法とは異なり、通常のC-H官能基化に伴う位置選択上の制約を回避し、合成が難しいメタ位へ直接到達できる。メタ置換ピリジンは、関節痛、炎症、急性痛風に使われる非ステロイド性抗炎症薬エトリコキシブや、慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍に使われる分子標的抗がん薬イマチニブにも見られる。既存のアリール基を「切り貼り」するように移せるため、医薬品化学者が分子類縁体を迅速に探索し、新薬候補の検討や既存の治療用骨格の最適化を進める新たな手段となる。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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