2026年09月
トップ  > ASEAN科学技術ニュース> 2026年09月

がん細胞の免疫回避を助ける「隠れたスイッチ」を発見 シンガポール国立大学

この記事は8月13日に、NUS Newsに初掲載されました。

シンガポール国立大学(NUS)は8月13日、同大学のがん科学研究所(CSI Singapore)の研究者らが、RNAヘリカーゼDDX6が免疫系によるがん細胞の認識を妨げる、これまで知られていなかった「隠れたスイッチ」であることを発見したと発表した。研究成果は学術誌Science Immunologyに掲載された。

左から、ガン・ウェイ・リャン(Gan Wei Liang)氏、主任研究員兼責任著者のポリー・レイレイ・チェン(Polly Leilei Chen)准教授、筆頭著者のラリー・ン(Larry Ng)博士、第2著者のヴィンセント・タノ(Vincent Tano)氏。NUSの研究チームは、DDX6が免疫シグナル伝達を抑制する主要な因子であることを突き止め、がん細胞が検知を逃れる仕組みを明らかにするとともに、DDX6をがん免疫療法の標的候補として浮き彫りにした。
(提供:NUS)

免疫系は、がん細胞を含む異常な細胞を絶えず探している。警告信号の一つが、細胞内で自然に作られる二本鎖RNA(dsRNA)である。dsRNAはウイルス感染時に生じるRNAに似ており、外来物や異常細胞に対する体の第一線の防御機構である自然免疫系を活性化できる。しかし、多くのがん細胞はこの信号を抑え、検知されないまま増殖する。DDX6を標的にすれば、腫瘍を免疫系から見つけやすくし、既存または新たながん免疫療法の効果を高められる可能性がある。

CSI Singapore副所長兼主任研究員のポリー・レイレイ・チェン(Polly Leilei Chen)准教授が率いる研究チームは、DDX6がRNA編集酵素ADAR1と協働し、内在性dsRNAによる免疫活性化を抑えることを突き止めた。従来、RNA編集はdsRNAの構造を弱め、免疫反応を起こりにくくすると考えられてきた。これに対し研究チームは、特定のRNA編集がdsRNAの構造を強め、自然免疫を活性化する能力を高めること、DDX6がこの有益なRNA編集を妨げ、腫瘍の免疫回避を助けることを見いだした。

実験室でDDX6を欠失させると免疫シグナル伝達が回復し、がん細胞が免疫系から見つかりやすくなって、腫瘍の増殖が遅くなった。研究チームは現在、DDX6を阻害する分子を特定し、抗腫瘍免疫応答を強化する能力を調べている。並行して、この経路に関与する別のタンパク質を特定し、がんに伴う免疫抑制への寄与を明らかにする計画だ。

本論文の筆頭著者でCSI Singaporeリサーチフェローのラリー・ン(Larry Ng)博士は「長年、RNA編集は一般に、免疫を誘発するRNA分子を弱めると考えられてきました。しかし、特定のRNA編集が実際にはそれらを強化し得ることが分かりました。これはRNA編集と免疫活性化の関係についての考え方を一変させ、がん治療法を開発する新たな可能性を開きます」と語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

  • アジア・太平洋総合研究センター
  • Science Japan
  • 客観日本
上へ戻る