2026年10月
トップ  > ASEAN科学技術ニュース> 2026年10月

ペプチドマイクロ液滴で大腸腫瘍増殖を約67%抑制 シンガポール南洋理工大学

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は9月4日、NTUの研究者らが、低分子干渉RNA(siRNA)を大量にがん細胞と免疫細胞へ送達するペプチドマイクロ液滴を開発し、治療が難しい大腸腫瘍の増殖をマウスで約67%抑制したと発表した。研究成果は学術誌Biomaterialsに掲載された。

(出典:NTU)

特許出願中のシステムは、がん細胞が免疫系の攻撃を回避するために利用するPD-1とPD-L1の産生を妨げる。PD-1はT細胞表面にあり、腫瘍細胞表面のPD-L1と結合すると、T細胞に攻撃を控えるよう停止シグナルが送られる。既存の免疫チェックポイント阻害療法はモノクローナル抗体で両者の結合を細胞外から阻害するが、今回の手法はsiRNAで各タンパク質の合成に必要なメッセンジャーRNAを破壊し、その産生自体を減らす。

研究チームは、PD-1を標的とするsiRNAを運び、表面の抗CD3抗体によってT細胞内への取り込みを促すペプチドマイクロ液滴と、PD-L1を標的とするsiRNAを大腸がん細胞内へ運ぶ別の液滴を併用した。実験ではT細胞の活性化と免疫シグナル伝達が促進され、マウスのマイクロサテライト安定型(MSS)大腸がんモデルで、腫瘍増殖の抑制効果は比較基準とした抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体の併用治療に匹敵した。MSS腫瘍は大腸がんの約85%を占めるが、免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果は限られている。

研究を主導したNTU材料科学工学部と生物科学部のアリ・ミセレス(Ali Miserez)教授は、マイクロ液滴は大量のsiRNAを作用すべき細胞内へ運び、PD-1とPD-L1の双方を同時に標的にできると説明した。本研究は、NTU材料科学工学部とリーコンチアン医学部を兼務するベルトラン・チャルニー(Bertrand Czarny)助教授と共同で実施した。筆頭著者はチェン・ズーリン(Chen Zilin)博士課程学生である。

siRNAは化学合成でき、配列を変えて別の遺伝子を標的にできる。治療への応用と大規模生産に成功すれば、製造費はモノクローナル抗体療法の約5分の1~10分の1となる可能性がある。チームは今後、より大型の動物モデルで安全性、投与量、遺伝子サイレンシング効果の持続期間を評価する。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

  • アジア・太平洋総合研究センター
  • Science Japan
  • 客観日本
上へ戻る