シンガポールの南洋理工大学(NTU)は9月16日、同大学の研究者らが太陽光を利用して海水から水素を生成すると同時に、工業排水に含まれる有毒な汚染物質ヒドラジンを分解する「人工の葉」を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

リディア・ウォン(Lydia H. Wong)教授(右から二人目)と研究チームメンバー
葉に着想を得た装置は、太陽光を直接利用して電気に変換し、外部電源なしで反応を進める。海水を直接使えば脱塩工程が不要になる一方、海水中の塩化物イオンは電気分解を妨げて効率を低下させるほか、電極を傷める腐食性・毒性のある塩素化合物の生成につながる。
NTU材料科学工学部のリディア・ウォン(Lydia H. Wong)教授らは、鉄、コバルト、クロムを含む触媒を陽極に用いた。この触媒がヒドラジンを水素と窒素に分解する反応は、通常の水の電気分解で酸素を生成する反応より必要なエネルギーが少ない。そのため、太陽光を利用する陰極では、より少ないエネルギーで効率的に水から水素を生成でき、陽極でもヒドラジンを除去しながら水素を生成する。塩素化合物の生成も抑えられる。
陰極には、光を電気に変えるハロゲン化鉛系ペロブスカイトを使い、劣化を防ぐため、銀と銅の粒子を含む導電性エポキシ樹脂とチタン箔で覆った。模擬海水と実際の海水を使った試験では、光電流密度が25mA/cm2に達し、鉛系ペロブスカイト陰極として報告された値の中でも特に高かった。晴天時に地表へ届く日光と同程度の照射下で72時間を超えて安定して作動し、同様の太陽光駆動型装置に匹敵する466µmol/cm2/時の速度で水素を生成した。

この装置は、クリーンな燃料を生成すると同時に、汚染物質を除去する。
この方法により、ヒドラジンを水から分離することなく30時間以内に分解し、その濃度を0.5M(重量比約1.6%)から0.5ppbまで低減した。同教授は「太陽エネルギーを効率よく利用して有毒な工業汚染物質を分解し、同時にクリーンな燃料を得ることで、エネルギーと汚染の両方の問題に取り組んでいます」と述べた。研究チームは、ほかの汚染物質の処理や廃棄物から燃料・工業用化学品を作る用途に向け、触媒の開発を進めている。
装置に光を照射すると、陽極と陰極の両方で水素が生成される。
(出典:いずれもNTU)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部