中国国家標準「科学技術成果の標準化に関するガイドライン」改正
JST北京事務所 2026年03月05日
中国政府は2025年10月、国家標準(中国における全国統一の規格)である「科学技術成果の標準化に関するガイドライン」を改正し(以下「改正ガイドライン」)、2026年2月から施行された。改正ガイドラインは、科学技術成果(研究開発成果)を標準化(規格化)する際の手順を整理した国家標準である。従来の技術移転を促進する指針にとどまらず、研究開発成果の標準化を通じて産業競争力を高め、それを国家戦略である「自立自強」や「新質生産力」につなげる政策文脈の中に位置付けられている。
中国政府の説明によると、改正ガイドラインは、研究開発の現場における「どの成果を標準化すべきか」「どのように標準化を進めるか」といった実務上の課題に対応することを目的としており、科学技術成果を標準化する際に、「標準化の可否評価」や「必須特許の開示・実施許諾声明の整理」といった手続きを明示している。そのため、標準化を志向する研究開発においては、研究開発段階から標準化の可能性や知財戦略を考慮することが求められる制度設計となっている。今後の標準策定実務では、これらの手続きが事実上の前提として扱われる可能性がある。
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国家標準番号:GB/T 33450-2025(改正前:GB/T 33450-2016)
国家標準名称:「科学技術成果の標準化に関するガイドライン(科技成果转化为标准指南)」
公布機関:国家市場監督管理総局、国家標準化管理委員会
公布日:2025年10月5日
実施日:2026年2月1日
(※)GB/Tは推奨国家標準(任意適用)に分類されるが、技術分野では事実上の市場基準になることが多い。
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制度設計の焦点―評価指標の体系化および知財手続きとの一体化
改正ガイドラインにおける特徴は、科学技術成果を標準化すべきかどうかについて、スコアリング可能な評価指標として体系化した点にある。技術的な成熟度、産業政策との整合性、国際標準との整合性等、複数の評価軸が示され、科学技術成果ごとの標準化の適格性を判断するために、具体的な指標と採点ルールが整理されている。
また、標準化手続きと知財処理(標準必須特許[SEP: Standard Essential Patent]の開示、実施許諾声明)を制度的に結び付けた点も着目すべきである。標準化の提案段階で、必須特許の開示や実施許諾声明の提出を求めることが示されており、標準化を視野に入れる研究では、研究開発段階から知財戦略を考慮することが求められる。標準化と知財管理を分離せず、一体的に検討する実務運用を促す制度設計になっている。
国際標準化を視野に入れた制度設計
改正ガイドラインでは、中国の国家標準や国際標準との関係も意識されており、標準化を進める際に、将来的な国際提案の可能性を踏まえ、国際標準および海外標準の発展動向との方向性の一致に係る視点が組み込まれている。
これは、改正ガイドラインが国内向けの運用指針にとどまらず、中国で整備された技術仕様を国際標準化に向けて提案していくための制度的な枠組みとも解釈できる。政府発表でも、国内標準と国際標準の連動強化を通じて国際標準化でより大きな役割を担う方針が示されている。
「新質生産力」と自立自強の政策的文脈
中国政府が掲げる「新質生産力」は、先進技術を基盤として産業構造を高度化し、競争力を質的に引き上げることを指す概念である。併せて、基盤的技術の確保や外部依存の低減を重視する「自立自強」の方針も強調されている。
改正ガイドラインは、科学技術成果の段階から標準化を組み込むことを明確化した点に特徴がある。研究開発、知財処理、標準化提案を連続的なプロセスとして整理することで、科学技術成果を産業競争力へとつなげることを手続き面から示した。今後、重要技術分野で国内標準が蓄積されれば、それを基礎とした国際標準化提案にもつながり、国際標準化の審議過程における中国の影響力が相対的に高まる可能性がある。
| (出典:「科技成果转化为标准指南」を元に作成) | |||
| 分類層 | 基準層 | 要素層 | 指標層 |
| 選別性指標a | 除外条件 | 科学技術成果の形態 | 標準化の原理に適合しない成果(公共性・普遍適用性を欠くもの等)は、原則として評価対象から除外。 |
| すでに標準化されているか。 | 評価前の標準新規性調査により、既存標準との重複がある場合は直接除外。 | ||
| a 選別性指標で基準を満たさない成果は、他の評価に関わらず標準化対象から除外される(一票否決性指標) | |||
| (出典:「科技成果转化为标准指南」を元に作成) | |||||||||||||||
| 分類層 | 基準層 | 要素層 | 指標層 | 指標採点規則 | |||||||||||
| 優 | 良 | 中 | 差 | ||||||||||||
| 競争性指標a | 成果の性質 | 共同使用特性 | 科学技術成果が一定範囲内で関連主体によって共同利用される特性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||
| 再利用特性 | 科学技術成果が一定範囲内で関連主体によって繰り返し使用される特性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 普及の必要性 | 科学技術成果を普遍的に展開させる必要性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 生産実現可能性 | 科学技術成果を生産力に変える実現可能性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 国家産業政策 | 成果が所属する業界と国家産業政策、国家支援分野、優位性のある分野または特色産業との適合性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 技術的価値 | 科学技術成果のライフサイクル上の段階 | 科学技術成果が創出されてから製品化に至るまでの各段階と特性 | 成熟期 | 成長期 | 創業期 | 育成期または衰退期 | |||||||||
| 産業化目標への達成度(注1) | 11~13級 | 8~10級 | 5~7級 | 1~4級 | |||||||||||
| 産業技術の促進効果 | 科学技術成果が産業技術の進歩に与える促進効果 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 科学技術成果が解決可能なキーとなる課題 | 科学技術成果が基幹技術や産業の重要課題を解決する能力 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 科学技術成果が戦略的新興産業の発展課題を解決する能力 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | |||||||||||
| 科学技術成果の先進性 | 同分野の他者と比較した科学技術成果の先進性 | 国際的に先進的 | 国内で先進的 | 国際水準または国内水準と同等 | 国際水準及び国内水準を下回る | ||||||||||
| 当該技術に係る知的財産の状況(国内外の論文・特許等を含む) | 知的財産権が多い | 知的財産権が比較的多い | 知的財産権が普通 | 知的財産権が比較的少ない | |||||||||||
| 技術的発展の方向性 | 科学技術成果と当該技術分野の将来の発展方向との適合性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 普及応用見通し | 成果の競争力 | 利害関係者の技術に対する認知度 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||
| 技術の実現コスト | 低い | 比較的低い | 比較的高い | 高い | |||||||||||
| 競合技術による代替可能性 | 低い | 比較的低い | 比較的高い | 高い | |||||||||||
| 成果が属する産業の性質 | 産業の国民経済発展における優先順位 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | ||||||||||
| 産業関連度 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 産業の成長性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 産業の国内または国際競争力 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 市場との適合性 | 市場の現在および将来の需要の程度 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | ||||||||||
| 市場需要の緊急性 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 市場リスク | 低い | 比較的低い | 普通 | 比較的高い | |||||||||||
| 経済への牽引効果 | 製品更新への寄与 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | ||||||||||
| 国民経済の個別の産業・分野の発展に対する牽引効果 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 産業構造の最適化と高度化への寄与 | 高い | 比較的高い | 普通 | 低い | |||||||||||
| 社会発展への牽引作用 | 公共サービスの質の確保への寄与 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | ||||||||||
| 環境、生態、資源及び社会の持続可能な発展への寄与 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 社会ガバナンスの促進、国家安全保障と利益の維持に関する役割 | 高い | 比較的高い | 普通 | 比較的低い | |||||||||||
| 整合性 | 重複・競合の状況 | 標準の適用範囲、中核となる内容および指標等の観点から、転換採用を予定している標準が、同分野の関連標準や他分野の類似標準と重複・競合していないかを重点的に分析。 | 重複・競合なし | 重複・競合が基本的にない | 一定程度の重複・競合がある | 重複・競合の程度が比較的高い | |||||||||
| 国内外の標準との整合性 | 国際標準および海外標準の発展動向との整合性 | 方向性が一致 | 方向性は基本的に一致 | 方向性が部分的に一致 | 方向性が一致しない | ||||||||||
| 資金・人員投入および持続的な研究開発の状況 | 当該分野における政府助成および市場化投資による研究開発の状況 | 助成または投資が多い | 助成または投資が比較的多い | 助成または投資が普通 | 助成または投資比較的少ない | ||||||||||
| 技術の継続的開発能力および科学技術成果のさらなる研究開発・改良のための条件 | 持続的開発能力が高い | 持続的開発能力が比較的高い | 持続的開発能力は普通 | 持続的開発能力が比較的弱い | |||||||||||
| 政策・法規の支援状況 | 導入予定の標準に対する国・業界の産業政策・法規上の支援または制約の状況 | 政策・法規による強力な支援を受けている | 政策・法規による一定の支援を受けている | 政策・法規による支援は比較的少ない | 政策・法規による制約を受けている | ||||||||||
| a 競争力指標は科学技術成果の属する分野に基づき、各指標を「優」・「良」・「中」・「差(劣位)」の4段階で評価する。 | |||||||||||||||
参考資料「産業化目標への達成度」
中国の産業化目標への達成度を示す指標として、「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--応用研究プロジェクト(GB/T 41620-2022)」と「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--開発研究プロジェクト(GB/T 41621-2022)」がある。以下に、両ガイドラインの等級をまとめたものを提示する。
(注1)級の数値が大きいほどより産業化目標への達成度が高い
(注2)基礎研究プロジェクトについては、「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン-基礎研究プロジェクト(GB/T 41619-2022)」において、以下の等級による評価とは別に、各評価項目の加重平均による評価方法が採用されている。
| (出典:「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--応用研究プロジェクト(GB/T 41620-2022)」「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--開発研究プロジェクト(GB/T 41621-2022)」を元に作成) | |||
| 等級 | マイルストーン | 応用研究プロジェクト | 開発研究プロジェクト |
| 13級 | 投資回収段階 (回报级) |
・業界内で広く普及する汎用技術となる。 | ・プロジェクト累計収益額 - プロジェクト累計費用(研究開発費+生産費用+運営費用)≧ 0 |
| 12級 | 収益段階 (利润级) |
・千件超の応用実績を有し、産業チェーンを形成。 | ・プロジェクト累計収益額≧プロジェクト累計投資額の50% |
| 11級 | 損益均衡段階 (盈亏级) |
・百件超の企業またはプロジェクトで採用。 | ・プロジェクト年間総収益ープロジェクト年間運用費用≧0 ・年度黒字を開始 |
| 10級 | 販売段階 (销售级) |
・複数の企業またはプロジェクトで応用 | ・量産製品(反復可能なサービスを含む)の初回販売収入を獲得 ・販売数量≧損益分岐点に必要な販売数量の30% |
| 9級 | システム段階 (系统级) |
・製品・専有技術・特許技術が移転される | ・大規模産業化生産およびサービス提供条件を備える(反復可能) ・品質管理体系を確立 ・製品品質検査に合格 ・市場参入条件を満たす |
| 8級 | 製品段階 (产品级) |
・製品サンプルがユーザーの承認を得る | ・小規模試験生産を完了し実製品を製造 ・製品・システム仕様確定 ・工程が成熟・安定 ・生産・サービス条件が整備され実運用可能 |
| 7級 | 実証段階 (环境级) |
・中規模試験環境で製品サンプルの性能指標を満たす | ・使用環境を想定した構成で、試作機が安定して稼働 ・定期的な環境試験に合格 |
| 6級 | 正式試作段階 (正样级) |
・小規模試験環境で製品サンプルの性能指標を満たす | ・試作機の実証試験に合格 ・量産を想定した製造工程の確認が可能 |
| 5級 | 初期試作段階 (初样级) |
・想定される使用環境における主要性能の検証 | ・試作品完成 ・図面および製造工程設計完了 ・試験に合格 |
| 4級 | 機能実証段階 (功能级) |
・重要機能を実現し、実証される | ・研究室内で主要な機能指標が目標値を達成 |
| 3級 | 原理実証段階 (伤真级) |
・研究室内での基盤的概念モデルのシミュレーションが成立 | ・基盤技術の概念モデルのシミュレーション検証に成功 |
| 2級 | 構想段階 (方案级) |
・特定の目標に向けた応用プランを作成 | ・ニーズを満たす、また問題解決のための技術的提案 |
| 1級 | 報告段階 (报告级) |
・潜在的な技術的な発展分野を発見し、新たな着想を得て、構想を報告 | ・新たな現象/問題/需要を発見し、報告書を提出(課題解決指向/技術主導/需要+着想・創意) |
参考リンク
- 2025年11月4日 中華人民共和国中央人民政府『国家標準「科学技術成果の標準化に関するガイドライン」の公布について』(中国語)
- 国家標準全文公開システム(国家标准全文公开系统)※日本からは、ガイドラインのダウンロードは不可。
標準番号:GB/T 33450-2025
「科学技術成果の標準化に関するガイドライン(科技成果转化为标准指南)」
標準番号:GB/T 41620-2022
「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--応用研究プロジェクト(科学技术研究项目评价实施指南 应用研究项目)」
標準番号:GB/T 41621-2022
「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--開発研究プロジェクト(科学技术研究项目评价实施指南 开发研究项目)」
標準番号:GB/T 41619-2022
「科学技術研究プロジェクトの評価実施ガイドライン--基礎研究プロジェクト(科学技术研究项目评价实施指南 基础研究项目)」
