中国、民間企業のAI人材に出国制限を拡大か 海外報道
Science Portal China編集部 2026年06月11日
中国政府が、民間企業の人工知能(AI)人材に対する出国管理の強化に乗り出していると欧米メディアが報じた。AI分野で米国を追い上げ、重要技術を保護する狙いがあるとみられる。これまで主に国有企業幹部や政府系研究機関の研究者らを対象としてきた海外渡航制限を、アリババ(Alibaba Group)やディープシーク(DeepSeek)など民間テック企業の高度人材にも拡大しているという。
関係筋によると、中国当局は、先端AI開発に従事し国家戦略上重要と判断された研究者やエンジニア、スタートアップ創業者、経営幹部らに対し、海外渡航前の事前承認を求める運用を進めている。
「報告」から「事前承認」へ 民間AI人材にも管理強化
中国ではこれまでも、著名大学の研究者や核科学者、国有企業幹部、共産党幹部などに対して出国管理が実施されてきた。国有企業では幹部のパスポートを組織が保管する運用も一般的とされる。
今回注目されるのは、こうした管理が民間企業の人材にも及び始めた点である。業界関係者によれば、一部のAI技術者については従来から海外渡航計画の報告を求められていたものの、現在は事前承認が必要となるケースが増えているという。
また、対象者は単純に役職や所属組織によって決まるのではなく、政府が評価する「技術的重要性」に基づいて選定されているという。現時点で対象範囲や人数は明らかになっていない。
技術流出防止と人材確保が背景か
今回の措置の背景には、AIを国家戦略上の重要分野と位置付け、技術や人材の国外流出を警戒する中国政府の姿勢があるとみられる。生成AI分野では米中間の競争が激化しており、中国は技術的自立と競争力向上を重要政策課題として掲げている。こうした中、トップレベルのAI人材は国家競争力を支える「戦略的資産」として位置付けられつつある。
背景の一つとして、AIスタートアップ「Manus」を巡る事案も指摘されている。同社は中国で創業後にシンガポールへ拠点を移転したが、買収案件を巡り中国当局が介入したと報じられた。海外報道によれば、当局は技術や人材の国外流出への警戒を強めており、先端技術企業に対する海外資本の関与についても監督を強化している。
もっとも、こうした措置は中国AI産業にとって負の側面も持つ。国際会議や共同研究、海外企業との交流機会が制約されれば、人材獲得や人材流出防止の面で逆効果となる可能性があるためだ。特に国際的なキャリア形成を志向する若手研究者や技術者にとっては、中国国内にとどまるか、早期に海外へ移るかという選択を迫る要因となり得る。
中国政府は近年、「高水準の科学技術自立自強」を掲げ、半導体や量子技術、AIなどの先端分野における自主技術の確立を重視している。今回のAI人材に対する出国管理強化も、こうした技術安全保障政策の一環として位置付けられるとみられる。今後、対象範囲がどこまで拡大するのか、また中国AI産業の国際連携や人材流動にどのような影響を与えるのかが注目される。
参考資料
