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中国、個人情報保護の集中取締りを強化

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2026年04月13日

 中国政府は2026年4月2日、中央網信弁公室、工業・情報化部、公安部の連名により、「2026年個人情報保護系列特別行動の実施に関する公告」を公布した。本公告は、『個人情報保護法』施行以降の監督強化の流れを踏まえ、違法や不適切な個人情報の収集・利用に対する取締りを一層強化するものである。

 今回の特徴は、特定分野に限定した措置ではなく、アプリ、広告、教育、交通、医療、金融など広範な分野を対象にした横断的な集中取締りである点にある。中国における個人情報保護が、制度整備から実効的な執行フェーズへ移行していることを示している。

背景:個人情報保護法施行後の「執行強化」局面

 2021年に『個人情報保護法』が施行されて以降、中国政府は違法な個人情報取扱行為の摘発や企業への指導を継続してきた。その結果、企業のコンプライアンス意識は一定程度向上したものの、依然として、過剰な個人情報収集、利用目的の不透明性、ユーザー同意の形式化、第三者提供の不適切な管理などの問題が残存している。

 こうした状況を受け、今回「重点分野に対する集中的な是正」を目的とした特別行動が打ち出された。これは制度の存在から一歩進み、違反行為の是正と抑止を重視する段階に入ったことを示す。

制度の特徴:分野横断型の重点監督

 本特別行動の特徴は、個人情報の利用場面に応じて、複数の重点分野を設定している点にある。具体的には、以下の7分野が対象とされている。

  1. アプリ(App)およびSDK(ソフトウェア開発キット)
2. インターネット広告
3. 教育
4. 交通・物流
5. 医療・健康
6. 金融
7. 個人情報関連犯罪

 すなわち、デジタルサービスから公共分野まで幅広くカバーすることで、個人情報のライフサイクル全体に対する監督強化が図られている。

主な取締り内容

①アプリ(App)・SDKに対する規制強化

 最も基礎的かつ重点的な対象は、アプリ(App)およびSDKによる個人情報収集である。ここでは、プライバシーポリシー未整備、利用目的の不明確さ、同意なき情報収集、必要性を超えたデータ取得、といった問題が重点的に取り締まられる。

 特に、「必要最小限」の原則に反する行為や、位置情報・連絡先・SMS等の過剰取得が強く問題視されており、従来よりも実質的な必要性判断が求められる点が特徴である。

②広告・アルゴリズム利用の透明化

 インターネット広告分野では、個人情報の利用透明性とユーザー権利の保障が焦点となる。

 具体的には、プロファイリング目的の不明示、第三者提供の不透明性、個人情報の訂正・削除権の未整備、パーソナライズ広告のオプトアウト不備などが重点的に是正対象となる。特に注目されるのは、自動化された意思決定(アルゴリズム推薦)に対する規制強化であり、ユーザーが容易に拒否できる仕組みの整備が求められている。

③教育・医療等におけるセンシティブ情報管理

 教育および医療分野では、未成年者情報や健康情報といったセンシティブデータの保護が重視されている。例えば、未成年(特に14歳未満)情報の保護不備、顔認証の過剰利用、医療データの不適切公開、内部管理体制の不備などが問題とされる。

 これらの分野では、単なる同意取得だけでなく、より厳格な管理体制と技術的安全措置の導入が求められている点が特徴である。

④交通・金融分野とデータ流通の規律

 交通や金融分野では、個人情報の第三者提供と安全管理が主な焦点となる。チケット販売や融資サービスにおける過剰データ取得、第三者への無断提供、個人情報の漏洩(住所・行動履歴等)といった問題に対して厳格な監督が行われる。また、郵便・宅配やモビリティサービスなど、生活インフラに密接する領域でのリスク管理強化も重要なポイントである。

⑤個人情報犯罪への打撃

 本公告では、行政規制にとどまらず、個人情報に関する犯罪行為の取締りも強化されている。重点は、情報漏洩、データ転売、不正利用といった一連の流通プロセスにあり、特に内部関係者による不正(いわゆる「内鬼」)への対策が強調されている。

 これは、個人情報保護をデータ経済全体の安全問題として位置付けていることを示している。

執行強化型ガバナンスへの移行

 本公告は、中国の個人情報保護政策が、制度整備中心の段階から、執行と取締りを重視する段階へ移行したことを明確に示している。中国におけるデータガバナンスが、「ルール中心」から「執行中心」へと転換しつつあることを象徴する政策である。特に、分野別の重点監督、アルゴリズム・広告への規制強化、刑事摘発との連動といった点は、今後の企業実務に直接的な影響を与えると考えられる。今後は、各分野における具体的な執行事例や処罰動向が、企業のコンプライアンス戦略に大きく影響することになるだろう。

参考資料

 

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