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中国、AI倫理審査制度を本格整備 「実装段階」へ移行

Science Portal China編集部 2026年04月16日

 中国政府は4月2日、人工知能(AI)の急速な発展に伴う倫理リスクへの対応を強化するため、工業・情報化部など10部門(省庁)の連名で「人工智能科技倫理審査とサービス弁法(試行)」(以下「本弁法」)を公表した。AI分野に特化した倫理審査制度を体系的に整備するもので、中国のAIガバナンスが理念提示から実務運用段階へ移行したことを示す政策と位置付けられる。

 中国では近年、生成AI、アルゴリズム推薦、ディープフェイクなどの技術が産業・社会の幅広い分野に浸透してきた。一方で、アルゴリズムによる差別、虚偽情報の拡散、個人情報侵害といった倫理的リスクが顕在化し、社会問題となっている。

 政府は2022年の「科技倫理ガバナンス強化に関する意見」、2023年の「科技倫理審査弁法(試行)」を通じて枠組み整備を進めてきたが、本弁法はAI分野に特化し、具体的な運用ルールを定めた点に特徴がある。

 本弁法は、既存のAI関連規制との整合性を確保しつつ、倫理審査を具体化している。生成AI、アルゴリズム推薦、深度合成など既に登録・審査制度がある分野では、重複審査を回避する仕組みを導入し、企業のコンプライアンス負担軽減も意識した構造となっている。違反時には、ネットワーク安全法や個人情報保護法など既存法令に基づき処罰されることが明記され、倫理規範でありながら実質的な拘束力を持つ。

【主な内容】

1)倫理審査の仕組み:ライフサイクル全体を対象

研究開発段階から運用段階まで、申請・審査・承認後のフォローアップを含む一連のプロセスを設計。承認後も定期的な追跡審査が義務付けられ、高リスク案件ではより短い間隔で見直しが行われる。

2)審査の重点:6原則に基づく総合評価

人類福祉、公平・公正、可制御性、透明性、責任追跡性、プライバシー保護の6原則を軸に、技術的妥当性と社会影響を総合的に評価する。

3)高リスクAIへの対応:専門家再確認

世論形成や社会統治、健康・心理に強い影響を及ぼすAIについては、専門家による再確認を必須とし、多層的なリスク管理を行う。

4)「規制」と「促進」の両立

倫理標準整備、評価サービス提供、人材育成支援などを通じ、AI倫理を産業競争力向上の基盤として位置付けた。

 本弁法は、事前審査と継続的監督を組み合わせた実践的なガバナンスモデルを打ち出した点で画期的だ。今後は、地方政府や企業レベルでの運用が制度の実効性を左右する。中国のAIガバナンスの方向性を示すと同時に、国際的なAI規制議論にも一定の影響を及ぼす可能性がある。

 

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