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中国「対外貿易法」の改正と日本企業への影響

2026年06月12日

柳陽

柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表

北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。

事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp

1.はじめに

 2025年12月27日、中国全国人民代表大会常務委員会は改正「対外貿易法」を可決し、2026年3月1日から施行した。今回の改正は、2004年の全面改正以来、最も重要な制度改正の一つと評価し得るものであり、中国通商法制が新たな段階へ移行しつつあることを示している。

 もっとも、今回の改正を単なる貿易促進法制のアップデートとして理解するのは適切ではない。近年、中国は「高水準の対外開放」を推進する一方、「国家安全」「産業安全」「サプライチェーン安全」を重視する姿勢を鮮明にしている。特に、米中対立の長期化や先端技術分野における輸出規制強化、データ・AI・半導体を巡る規制競争等を背景として、中国法制は安全保障との結び付きを強めている。

 今回の改正も、そのような流れの中で理解する必要がある。サービス貿易やデジタル貿易等の新領域に対応する制度整備が進められる一方、安全保障やサプライチェーン管理への配慮も強まっており、その両面を踏まえて内容を理解する必要がある。

2.制度型開放と安全保障化の同時進行

 新法第6条は、「国家は、高水準の対外開放を推進し、国際的高水準経済貿易ルールとの整合を積極的に進める」旨を定めている。従来、中国の対外開放政策は、関税引下げや市場参入規制の緩和が中心であったが、近年では、デジタル・金融・サービス分野を含むルールや制度の整備を通じて対外開放を進める、いわゆる「制度型開放」が重視されるようになっている。

 その一方で、新法第1条は立法目的として「国家の主権、安全及び発展利益の維持」を掲げ、第3条は対外貿易が「貿易強国建設」に寄与すべきことを定めている。これらの規定からは、対外貿易法が単なる貿易促進のための法律ではなく、国家政策を実現するための法的基盤として位置付けられていることがうかがえる。

 このように、今回の改正は、対外開放を進めると同時に、安全保障や産業政策との関係も意識した内容となっている。

3.サービス貿易・デジタル貿易条項の新設

 今回の改正における重要なポイントの一つは、サービス貿易及びデジタル貿易が正式に対外貿易法の対象として位置付けられたことである。新法第27条は、「越境取引」「国外消費」「商業的存在」「自然人移動」等のGATS型概念を導入した上で、「国家は、越境サービス貿易ネガティブリスト管理制度を実施する」と規定している(新法第31条)。

 これにより、中国当局がサービス貿易を管理するための法的根拠がより明確になったと考えられる。特に、クラウドサービス、AI解析サービス、リモート保守等については、中国国内に法人を有していない場合であっても、中国法との関係が問題となる可能性がある。

 また、近年整備が進む「データ安全法」「個人情報保護法」「サイバーセキュリティ法」等と併せて考えると、データや技術の越境移転についても、今後は通商管理の観点から規律される場面が増えると考えられる。

 特に日本企業では、中国子会社が研究開発やデータ分析等の機能を担うケースも増えている。そのため、本社と中国子会社との間で行われるデータ共有やクラウド利用についても、従来のIT管理の問題としてだけではなく、中国法上の規制との関係を意識する必要がある。

4.「必要な措置」条項の新設

 新法第18条は、貨物・技術の輸出入について禁止又は制限措置を講じ得る場合として、「その他必要な措置を採る必要がある場合」という包括条項を追加した。また、第19条第2項は、「国際関係上のその他の緊急状況」という概念を新たに規定している。

 これらの規定は、安全保障上必要と判断される場合に、中国政府が輸出入や技術取引に対して柔軟に対応できるようにする趣旨と考えられる。特に、半導体、AI関連技術、高性能材料、データ解析、通信設備等については、今後、安全保障上の観点から規制対象となる可能性がある。

 そのため、日本企業としては、現時点での適法性だけでなく、将来的な制度変更や規制強化の可能性も踏まえてリスクを検討することが重要である。もっとも、具体的な運用は今後の関連規則や当局実務によって明らかになると考えられ、現時点で過度に懸念する必要はないものの、安全保障や産業政策を重視した運用が進む可能性には留意しておくべきであろう。

5.反制裁措置規定と法域衝突

 新法第40条は、中国政府による反制裁措置の法的根拠を整備している。同条は、中国の主権、安全又は発展利益を害する外国企業等や、正常な市場取引の原則に反して中国の個人・組織との正常な取引を中断した外国企業等に対し、中国政府が輸出入又はサービス貿易に関する禁止・制限措置を講じ得る旨を定めている。また、第40条第2項は、「いかなる組織又は個人も、当該措置を回避するために支援、協力又は便宜供与を行ってはならない」と規定している。

 日本企業にとって実務上問題となるのは、米国法と中国法の双方への対応が求められる場面である。例えば、米国輸出管理規則に基づき中国企業向け取引の停止を求められた場合、中国法上は「正常な取引の不当中断」と評価される可能性も否定できない。

 近年、このような法令間の要求が両立しない問題は、半導体や先端技術分野を中心に現実のものとなりつつある。対応によっては法務判断だけでなく経営判断を伴うケースも想定されるため、中国関連ビジネスにおいては、輸出管理条項や制裁条項、法令変更時の再協議条項等を含め、契約上のリスク配分を従来以上に慎重に検討する必要がある。

6.技術輸出入契約届出制度の再注目

 今回の改正では、自由輸出入技術契約に関する届出制度にも変更が加えられた。新法第72条は、届出を行わない場合には是正命令、警告及び5万元以下の過料を科し得る旨を定めている。

 従来、自由類技術契約の届出については、実務上、形式的な手続として扱われることも少なくなかった。しかし近年、中国では技術やデータの管理が重視されており、技術の移転・共有に対する管理も強化される傾向にある。

 そのため、日本企業としても、単に届出の有無を確認するだけでなく、グループ内でどのような技術が中国との間で移転・共有されているのかを把握しておくことが重要となる。特に、ソフトウェア、アルゴリズム、AIモデル等については、技術ライセンス契約だけでなく、共同研究開発やM&A、デューデリジェンス(DD)段階における情報共有も含め、管理体制を見直すことが重要となる。

7.おわりに

 今回の新対外貿易法改正は、中国における通商ルールの変化を示す重要な改正と言える。サービス貿易やデジタル貿易に関する制度整備が進む一方、安全保障やサプライチェーン管理との関係も重視されるようになっている。

 日本企業においても、中国法務を単なる現地法令対応として捉えるのではなく、輸出管理、データ規制、技術管理、経済安全保障といった関連分野を含めて検討することが重要となる。

 今回の改正を機に、自社の中国ビジネスにおける契約管理、技術管理及びコンプライアンス体制を改めて点検するとともに、今後の制度動向にも継続的に注視していくことが求められるだろう。

以上

参考リンク

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