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【26-013】どうして宇宙飛行士訓練が洞窟で行われるのか

占 康、呂志強、付毅飛(科技日報記者) 2026年02月04日

 中国宇宙飛行士科学研究訓練センターが重慶市武隆区で実施した中国初の宇宙飛行士洞窟訓練がこのほど、無事終了した。期間中、宇宙飛行士28人が4グループに分かれ、5泊6日の洞窟訓練を行った。

洞窟訓練とは何か?

 洞窟環境は、隔離された閉鎖空間や高リスクという点で、宇宙の極限環境との共通点を持つ。宇宙の極限環境に近い訓練場を構築するため、中国宇宙飛行士科学研究訓練センターは、広西、湖南、重慶など7省・自治区・直轄市で10カ所以上の洞窟を実地調査した。訓練の難易度、地質の安定性、基本的な生存環境の安全性を総合的に評価した結果、最終的に武隆区の洞窟を訓練場として選定した。

 中国有人宇宙プロジェクト宇宙飛行士システムサブチーフデザイナーである中国宇宙飛行士科学研究訓練センターの呉斌氏は、「今回の訓練では、洞窟探査、科学研究、物資管理、生活支援といった所定のミッションを宇宙飛行士が遂行した。訓練中、宇宙飛行士は極狭通路の通過、断崖の懸垂下降、長期間にわたる湿気と寒さなどを経験すると同時に、暗所恐怖症や感覚剥奪など、多くの課題を克服する必要があった」と説明した。

 将来の需要を見据え、今回の洞窟訓練には複数の革新的要素が盛り込まれた。内容設計では、宇宙探査ミッションの特性を踏まえ、環境モニタリング、洞窟測量、宇宙・地上間通信シミュレーション、チーム心理・行動訓練など10項目以上を設定し、人と極限環境の相互作用に関する7件の科学研究も同時に実施し、貴重なサンプルとデータを取得した。訓練運営では、訓練生をグループ分けして段階的に進め、洞窟訓練とジャングル訓練を交互に実施し、各科目を切れ目なく連結させることで、1か月以内に全訓練を完了し、時間と人員のコスト削減を実現した。

 支援体制では、中国宇宙飛行士科学研究訓練センターが中心となり、現地政府の関係機関および専門救助隊と連携した多機関合同作業チームを編成。「最小の投入で最大の保証」を原則に、現地支援と遠隔技術支援を組み合わせた協調体制で、訓練の集約化と効率化を確保した。

洞窟訓練の目的は何か?

 呉氏は、「今回の訓練は、危険対処能力、自律的作業能力、チームワーク能力、緊急時意思決定能力、科学調査能力、身体耐性、そして極限環境下での心理的レジリエンスを高めることを目的とした。これは宇宙飛行士に対する総合的な評価でもある」と紹介した。

 欧州の洞窟訓練に参加経験があり、今回の訓練でも指揮官の一人を務めた宇宙飛行士の葉光富氏は、「今回の洞窟訓練は宇宙飛行士の自律性の喚起をより重視しており、洞窟内での支援介入を減らし、心理モニタリングを強化することで、将来の宇宙飛行に向けた貴重な経験を蓄積した」と語った。

 中国宇宙飛行士科学研究訓練センターの宇宙飛行士教官である江源氏によると、心理的レジリエンスは宇宙飛行士にとって重要な資質だ。洞窟は、感覚剥奪、リスクの不確実性、社会的隔離といった心理的課題が集中する典型的な極限的密閉環境であり、今回の訓練で行われた心理状態の研究と介入は高い科学的価値を有するという。心理状態の追跡評価や集団心理支援といった技術手法により、宇宙飛行士が洞窟環境に適応できただけでなく、極限環境下における人体の心理変化に関する大量のデータが蓄積された。これらのデータは、将来の宇宙ステーション長期ミッションや有人月探査における心理支援体制の構築に重要な支えを提供するという。

 訓練を受けた宇宙飛行士の朱楊柱氏は、「洞窟訓練は閉鎖的で地形も複雑で、深宇宙探査における孤立と未知をシミュレーションしたもので、心身の限界を試された。この経験を通じて、チームワークの重要性をより深く理解し、緊急時対応と心理的ストレス耐性をさらに鍛えることができた。今後のミッションに向けた貴重な経験を蓄積した」と述べた。

他にどのような訓練方法や技術があるのか?

 洞窟訓練と並行して、宇宙飛行士は各2日間のジャングル訓練も実施した。救命装備品の使用やサバイバル技能の実践を通じ、訓練生はジャングル生存の基本知識と技能をさらに習得し、過酷な自然環境下での生存能力を高め、チームワーク意識を養った。

 近年、中国宇宙飛行士科学研究訓練センターは、有人宇宙事業の発展に伴う新たな需要に応じて訓練体系を最適化し、訓練項目と内容を更新している。また、軌道上船外活動用MR(複合現実)訓練装置や視覚・運動の不一致を利用したトレッドミル訓練技術、ストロボ視覚訓練技術、深宇宙極限心理耐性訓練システムなど、新たな訓練方法と技術の研究開発を継続的に進めている。同センターでは、AI技術の訓練への応用研究も積極的に推進し、宇宙飛行士のミッション遂行能力をより全面的かつ効率的に高めているとしている。

 さらに、訓練メカニズムのイノベーションにおいて、同センターは、飛行経験を持つ宇宙飛行士の指導・支援・育成の役割を十分に活用し、特別訓練や厳格な評価、資格認定を通じて、豊富な経験と優れた能力を備えた宇宙飛行士を飛行教官として選抜している。宇宙飛行で得た実践的経験を理論教育と実技指導に組み込み、訓練の質と水準の向上を図っているという。


※本稿は、科技日報「模拟深空环境 提升心理韧性」(2026年1月6日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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