科学技術
トップ  > 中国 コラム&リポート 科学技術 >  オープンソースとオープンウェイトAIを支える中国のモデル共有基盤「ModelScope」

オープンソースとオープンウェイトAIを支える中国のモデル共有基盤「ModelScope」

2026年07月13日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

オープンソース、オープンウェイトAIとは

 生成AIの発展により、「オープンソース」という言葉の意味が少し複雑になっている。従来のソフトウェアであれば、ソースコードを読める、改変できる、再配布できることが中心だった。しかし大規模言語モデルでは、ソースコードだけでは十分ではない。モデルの構造、推論コード、学習済みの重み(ウェイト)、学習データ、学習手順などが組み合わさって、初めてAIモデルとして機能するからだ。

 現在「オープンソースAI」と呼ばれるものの多くは、厳密には「オープンウェイトAI」である。これは、モデルの重み、つまり学習によって得られたパラメータが公開されているAIを指す。利用者はモデルをダウンロードし、自分のPCやサーバーで動かしたり、用途に合わせて微調整したりできる。一方で、学習データや学習プロセスのすべてが公開されているとは限らない。

 ChatGPTのような主要な生成AIサービスと比べると、この違いは分かりやすい。ChatGPTでは、利用者はWeb画面やAPIを通じてAIを呼び出す。便利で高性能だが、通常はモデルの重みを手元にダウンロードし、内部を調べたり、自分で改変して再配布したりするものではない。これに対し、DeepSeek、Qwen、Llama、Mistralなどのオープンウェイトモデルでは、開発者がモデルを入手し、自社サーバー、研究環境、組み込み機器などで直接利用できる。

 この違いは実用面で大きい。たとえば企業は、機密データを外部APIに送らずに社内でAIを動かせる。研究者はモデルの挙動を調べ、用途に応じて微調整できる。開発者はモデルを小型化し、ロボット、スマートカメラ、工場設備、車載端末などに組み込める。

 ここで重要になる技術の一つが「量子化」である。量子化とは、モデル内部の数値表現をより少ないビット数に圧縮する技術である。たとえば16ビットや32ビットで表現されていた重みを、8ビットや4ビットで近似する。これにより、メモリ使用量や計算量を減らし、大きなモデルをより小さなGPUや端末で動かしやすくできる。オープンウェイトモデルが公開されると、別の開発者がそれを量子化し、扱いやすい形で再公開する。この派生と再利用の連鎖が、現在のオープンウェイトAIの発展を支えている。

AIモデルの共有基盤としてのHugging Face

 この流れを世界的に支えてきた代表的な場が、米国発のHugging Faceである。Hugging Faceは、AIモデル、データセット、デモアプリを共有するためのプラットフォームであり、しばしば「AIモデルのGitHub」と呼ばれる。中国オープンソース年度報告(リンク)によると、Hugging Face Hubは200万以上のモデル、150万以上のデータセット、150万以上のAIアプリケーションをホストしていると説明されている。

 Hugging Faceの重要性は、モデルの公開と再利用を非常に簡単にした点にある。研究者や企業がモデルを公開し、他の開発者がそれを試し、量子化し、微調整し、派生モデルとして再公開する。この循環により、AIモデルは一部の大企業だけが保有するものではなく、世界中の開発者が使い、改良し、応用できるものになった。

 ただし、中国の開発者にとってHugging Faceは必ずしも使いやすい環境ではない。中国本土からのアクセスが不安定になることがあり、数GB(ギガバイト)から数百GBに及ぶ大規模モデルを安定してダウンロードするには制約がある。また、中国語での情報、国内クラウドとの連携、中国企業や大学のモデルをまとめて扱う場として、中国国内に最適化された基盤が求められていた。

中国版Hugging FaceとしてのModelScope

 この背景から存在感を高めているのが、ModelScope(中国語名「魔搭」)である。ModelScopeは、アリババグループの研究機関である達摩院(DAMO Academy)を中心に立ち上げられたAIモデル共有プラットフォームで、2022年11月に発表された。発表時点では、DAMOが開発した300以上のAIモデルが公開され、コンピュータビジョン、自然言語処理、音声などをカバーしていた。

 ModelScopeは達摩院と中国計算機学会(CCF)オープンソース発展委員会が共同で立ち上げたAIモデルコミュニティだ。初期には、瀾舟科技(LangBoat Technology)、智譜AI(Zhipu AI / Z.ai)、深勢科技(DP Technology)、ハルビン工業大学・科大訊飛(iFLYTEK)連合実験室、中国科学技術大学なども協力機関として名前が挙がっていた。

 ModelScopeを「中国版Hugging Face」と呼ぶのは分かりやすい。どちらも、AIモデルを探し、試し、ダウンロードし、再利用するための場である。ただし、ModelScopeは最初から中国国内のAI開発環境を強く意識している。中国国内からアクセスしやすく、中国語モデルや中国企業・研究機関のモデルが集まり、アリババクラウドなど国内計算資源との連携も重視されている。

 ModelScope自身は、「Model-as-a-Service(MaaS)」という考え方を掲げている。これは、モデルを単に置いておくだけでなく、検索、体験、推論、微調整、評価、デプロイまでを一体で提供するという発想である。Hugging Faceにも同様の機能はあるが、ModelScopeの場合は、中国国内のネットワーク、クラウド、産業利用に合わせて作られている点が大きな違いである。

image

中国のオープンソース・オープンウェイトAIのハブとなっているModelScope。(スクリーンショット)

 ModelScope上では、モデルを検索してダウンロードするだけでなく、Web上で試し、SDKを使い、自社用途に合わせて微調整できる。クラウド上のNotebookや推論環境を使えば、手元に高性能GPUがなくても実験を始められる。

 掲載されているモデルも幅広く、アリババのQwenをはじめ、DeepSeek、智譜AI、MiniMax、階躍星辰(StepFun)、Mistralなど、中国国内外の主要モデルが集まっている。大規模言語モデルだけでなく、音声認識のFunASR、画像・動画生成のDiffSynth系ツール、モデル微調整のms-swift、評価のevalscope、エージェント開発のms-agentなど、周辺ツールも整備されている。

 中国国内での評価は高い。中国メディアの科技日報は、ModelScopeを「中国最大のAIオープンソースコミュニティ」と位置づけ、開発者、研究機関、企業が集まる場として紹介している。サービスの成長も速い。2022年の発表時点では300以上のモデルだったが、2024年には英語版公開時に5000以上のモデル、1500以上の中国語データセットを提供すると説明されていた。2025年6月には7万以上のオープンソースモデル、1600万人のユーザーに達したと報じられ、2026年3月の魔搭開発者大会では、ユーザー数が2500万人を超え、オープンソースモデル数は17万に達したと発表された。

 興味深いのは、ModelScopeがオンライン上のモデル共有サービスに留まらず、地域の開発者センター、創業支援、産業応用とも結びついている点である。杭州などでは、ModelScopeを中心に開発者、スタートアップ、大学、企業をつなぐ取り組みも進んでいる。これは、中国のオープンソースAIが、単なる開発文化ではなく、産業政策や地域イノベーションと結びついていることを示している。

 ModelScopeは、単なるモデル一覧サイトではなく、中国国内でAI開発を進めるための作業環境になっている。企業の業務文書処理、カスタマーサポート、教育、音声認識、画像処理、製造業での検査、研究開発支援など、実装先は広い。特定業界のデータでモデルを微調整し、社内サーバーや国内クラウド上で運用する需要も大きい。海外APIに依存せず、中国語環境で開発から運用まで進められる点は、中国企業にとって実用上の意味が大きい。

海外での位置づけ

 ModelScopeは中国国内向けだけではない。2024年には英語版がコンピュータビジョン分野の国際会議「CVPR」で発表され、国際版サイトも用意されている。ただし、海外での認知度は今もHugging Faceが圧倒的に高い。グローバルな研究者や企業がモデルを公開し、論文やデータセット、デモを共有する標準的な場としては、Hugging Faceが中心である。

 一方で、中国発のモデルそのものは、すでに世界で大きな存在感を持っている。DeepSeekやQwenのようなモデルは、Hugging Face上でも広く流通し、多くの派生モデルや量子化モデルが作られている。したがって現時点では、「世界の開発者がModelScopeに移っている」というより、「中国のオープンウェイトモデルがHugging FaceとModelScopeの双方で流通し、世界のAI開発に影響を与えている」と見る方が正確だろう。

 ModelScopeの海外展開は、今後の中国AIを見るうえで重要である。Hugging Faceが世界標準のAIモデル共有基盤であり続ける一方で、中国企業や研究機関がModelScopeを通じてモデルを公開し、国際版で海外開発者にも届ける流れが強まれば、AIモデルの流通経路はより多極化していく。特にQwen、DeepSeek、GLM、MiniMaxのような中国発モデルが国際的に使われるほど、ModelScopeの存在感も中国国内に留まらなくなる。

日本から見るべきポイント

 日本からModelScopeを見るとき、「中国版Hugging Face」という説明は入口としては分かりやすい。しかし、それだけでは不十分である。ModelScopeは、中国のAI開発を国内ネットワーク、国内クラウド、国内企業、大学、オープンソースコミュニティに接続するための基盤になっている。

 中国では、米国の先端GPUへのアクセス制約、海外サービスへのアクセス制約、そして国内産業でAIを実装する必要性が同時に存在している。その中で、オープンウェイトモデルを公開し、国内で高速に配布し、微調整し、国産チップや国内クラウドで動かす方向が強まっている。

 AIの競争は、もはや単一の巨大モデルの性能だけでは決まらない。モデルを誰が使えるのか、どこでダウンロードできるのか、どの言語で情報が得られるのか、どのクラウドやチップで動くのか、どれだけ多くの派生モデルやアプリケーションが生まれるのか。ModelScopeは、そのすべてを中国国内で回すための重要なインフラである。

 オープンソース、オープンウェイトAIの時代に中国のAIを見るには、DeepSeekやQwenといった個別モデルだけでなく、それらを流通させ、改変させ、使わせる場としてのModelScopeを見る必要がある。そこに、中国のAI開発が持つ実装力と、オープン化を戦略として使うしたたかさが表れている。


高須正和氏記事バックナンバー

 

上へ戻る