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技術開発とオープンソースをより重視したROBOMASTER 2026

2026年08月24日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深圳コミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊創客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など。

 2025年のROBOMASTERについて、筆者は本サイトで、各大学が開発した技術をオープンにし、それが他のチームから何回引用されたかまで記録されていることを紹介した(リンク)。

 華南理工大学の例では、2025年に同校が公開した技術を引用したレポートが11本あり、引用総数は25件に達していた。

 ROBOMASTERでは、試合では競争相手である大学同士が、開発については先行事例を参照し、改良したものを再び公開する文化ができている。

 2026年8月に深圳で行われた全国大会では、この仕組みがさらに一歩進んでいた。会場には「RoboMaster AWARD 2026」の候補者が大きく掲示され、大学やチームの名前だけでなく、学生個人の名前と、その学生が担当した技術まで紹介されていた。

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RoboMaster AWARD 2026の候補者。学生の氏名、大学、チームとともに、具体的な開発内容が紹介されている。(筆者撮影)

学生個人の技術開発を表彰するRoboMaster AWARD

 RoboMaster AWARDは2024年から始まった個人表彰で、技術部門と管理部門がある。技術部門では、単にチームの成績が良かったかどうかではなく、本人が新しい知識を実際の開発に応用したか、既存方式に対して明確な改良や突破を行ったか、それが実際の競技準備や試合で使われたかが審査される。2026年の候補者は書類審査を通過した学生で、この後さらに面接による選考が行われる。最終受賞者には1万元の賞金が設定されている。

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管理方法、アルゴリズム、ハードウェア、ソフトウェアと、各方面の技術が表彰されている。(筆者撮影)

 会場の掲示を見ると、この制度が何を評価しようとしているのかが分かりやすい。たとえば上海交通大学の学生については、シミュレーションを使った哨兵ロボットの自律戦略の訓練方法が成果として記されていた。北京理工大学の学生については、通路の高さに合わせて車体を変形させる哨兵ロボットの機構が紹介されていた。大学名やロボットの名前ではなく、「誰が、どの問題を、どう解決したか」が表に出ている。

 これはROBOMASTERの特徴を考える上で興味深い。通常のロボットコンテストでは、最終的な成績は大学やチームに帰属する。ところが実際のロボットは、多数の学生が一年近くかけて開発した結果であり、それぞれの学生が担当した技術はかなり異なる。RoboMaster AWARDは、その開発者個人を評価する仕組みになっている。

 さらにこの賞はDJIの採用とも接続している。候補者にはDJIの新卒採用で一次面接に直接進める権利が与えられ、最終受賞者には条件に応じて二次面接への優遇もある。競技で作った技術が、チームの成績だけでなく、個人のエンジニアとしての実績にもなるよう設計されている。

2026年は「技術を公開すること」自体にも大きな賞

 筆者が今回さらに重要だと感じたのは、個人を表彰するRoboMaster AWARDと並んで、技術を公開すること自体にかなり明確なインセンティブが設けられていることである。

 2026年のROBOMASTERには「オープンソース賞」があり、最高賞の賞金は10万元となっている。ソフトウェア部門で応募する場合、プロジェクトをGitHub上の公開リポジトリにしなければならない。機械やハードウェアについても、説明だけでなく設計用のプロジェクトファイルを公開することが求められている。審査も公開資料の形式と内容の両面から行われる。

 ここでいうオープンソースは、完成したロボットの写真や動画を公開することではない。別のチームがその設計を調べ、自分たちのロボットを作る際に利用できる資料を残すことを意味する。

 実際、ROBOMASTERの公式コミュニティを見ると、各大学が公開しているのはプログラムだけではない。ロボットのCADや回路、試験結果、シミュレーション環境などが公開されているほか、チームの採用や新人教育、予算管理といった運営資料まで公開例がある。公開されたものは公式BBSからGitHubやGiteeなどへリンクされ、次のシーズンでも参照できる形で蓄積されている。

優れた技術を作ったチームにも公開を求める

 2026年の制度でさらに面白いのは、オープンソース賞に応募したチームだけに公開を求めているわけではないことだ。

 別に設けられている「年度技術突破賞」は、実際の試合で使われたロボットについて、技術的な新しさや競技での成果を評価する賞である。この賞を受賞したチームには、該当するロボットについてシーズンのまとめを含めて公開することが求められ、公開しなければ賞金の支給にも影響すると規定されている。

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2025年から始まった技術公開・引用数に加え、2026年はAWARD数も表示され、より個人の技術開発とオープン化に注目が集まるようになった。(筆者撮影)

 ロボットコンテストでは、新しい仕組みを開発したチームほど、それを秘密にしておくほうが次の大会でも有利になる。特に毎年同じ大学が参加する大会では、その傾向は強くなりやすい。一方、ROBOMASTERでは、優れた技術を作ったことを評価すると同時に、その成果を次の参加者が使えるよう公開することにも価値を与えている。

 2025年に筆者が見た「引用数」の仕組みも、この考え方の上にある。公開した技術が他のチームに使われれば、その事実が記録される。2026年はさらに、公開そのものへの高額な賞と、技術を作った個人への表彰が目立つ形で加わっている。

ルール変更によって、新しい技術課題を作り続ける

 もちろん、公開するものが増えている背景には、競技そのものの技術的な変化もある。

 ROBOMASTERは毎年ルールを変更する。2026年も新しい課題が加わり、それに合わせて各チームがロボットを作り直している。たとえば北京理工大学のDreamChaserチームは、ロボットへの無線給電装置を開発して公開した。単に充電器を作ればよいわけではなく、競技中のロボットで安定して使えるところまで仕上げる必要がある。

 また、2026年の会場に並んだRoboMaster AWARDの候補者を見ると、単独の部品を作るというより、ロボット全体の振る舞いを改善する開発が多くなっている。上海交通大学の哨兵ロボットの例もそうだが、実機だけで試行錯誤するのではなく、シミュレーションを使って戦略や制御を開発する取り組みが学生の成果として評価されるようになっている。

 こうした技術は一つの大学だけで突然生まれているわけではない。過去のチームが公開した設計を参照し、その上に新しい実装を積み重ねる例が多い。RoboMaster向けにはROS 2を利用した共通ソフトウェアも公開され、大学ごとの実装もGitHubやGiteeに数多く残されている。

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決勝まで残った32校は、それぞれのチーム内での技術継承や、学業とのかかわりを公開している。(筆者撮影)

競技の成績とは別に、技術を残す評価軸

 2026年の大会では、前年まで全国大会で強かった大学が地区大会で苦戦する一方、これまで全国大会の上位ではなかった大学が上位に入る例も見られた。たとえば2025年全国大会優勝の上海交通大学は、2026年の南部地区大会ではベスト8だった。一方、華南農業大学は同地区大会で優勝し、五邑大学が準優勝した。

 ROBOMASTERではルールが毎年変わるため、前年の強いロボットをそのまま持ってくれば勝てるとは限らない。ここに、オープンソースとの相性の良さもあるのではないかと筆者は考えている。

 前年の強豪が開発した技術が公開されれば、他の大学は翌年そこから開発を始めることができる。一方、ルールは変わるので、公開された設計をそのままコピーするだけでは勝てない。先行する技術を理解した上で、新しい問題に合わせて改良する必要がある。

 そして、その改良した技術を再び公開すれば、翌年は別のチームが利用できる。

 前回の記事では、この循環が「引用」という形で可視化されていることを紹介した。2026年に現地で見たRoboMaster AWARDとオープンソース賞は、それをさらに制度として支えるものだった。優れた技術を作った学生を評価し、公開したチームも評価し、公開された成果を次のチームが利用する。

 学生が数年で卒業し、毎年メンバーが入れ替わる大学のロボットコンテストで、どうやって技術を蓄積していくか。ROBOMASTERでは、試合の勝敗とは別に「技術を残す」という評価軸を作ることで、その仕組みを整えつつあるように見えた。


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