量子メモリ拡張の課題解決に道筋 「本源悟空」で新手法を検証
呉長鋒(科技日報記者) 2026年09月15日
中国の量子コンピューティング企業「本源量子」は、中国科学技術大学、合肥総合性国家科学センター人工知能研究院などの研究チームと共同で、中国が開発した超伝導量子コンピューター「本源悟空」上で、バケット・ブリゲード型量子ランダムアクセスメモリ(QRAM)向けの「コヒーレント量子ルーティングシステム」を開発した。安徽省量子コンピューティングチップ重点実験室が2日、明らかにした。このシステムは、データセンターに「高速道路」を設けるような仕組みで、QRAMの拡張を阻んでいた課題を解決した。関連論文はこのほど、国際学術誌「Physical Review X」に掲載された。
量子コンピューターを「スマートシティ」に例えるなら、QRAMはその中でデータを保存・振り分ける「データセンター」に当たる。QRAMは量子探索や量子機械学習などのアルゴリズムを実現するための重要な機能モジュールであり、その中核となるのが量子ルーターである。量子ルーターは、アドレス命令に基づいてデータを正確に目的の場所へ送り届ける役割を担う。ルーティングネットワークの規模が拡大すると、従来の方式ではノードを1つ追加するたびに、命令を多数の標準量子ゲートに段階的に分解する必要があり、回路の深さが急増して誤差が蓄積するため、QRAMの拡張が制限されていた。
この課題に対して、研究チームは補助エネルギー準位を利用した量子ルーターの構築手法を提案した。「コヒーレント量子ルーティングシステム」は、超伝導量子ビットの補助エネルギー準位を利用し、複雑な制御付き量子ビット交換(SWAP)操作を、少数の2量子ビット遷移ゲートで構成する浅い回路に置き換え、同等の機能を実現する。これは、混雑したデータ経路の上に「高速道路」を設けるようなもので、データが冗長なノードを迂回して目的地へ直接到達できるようにし、回路の深さを大幅に削減するとともに、誤差を低減する。
研究チームは「本源悟空」上に、独立した量子ルーター3基と2層構造の量子ルーティングネットワーク1セットを実際に構築し、テストを行った。その結果、単一の量子ルーターの情報伝送効率は98%、2層ルーティングネットワーク全体の伝送効率は93%だった。ランダムアクセス試験では、単一の量子ルーターの平均忠実度は94.8%、2層ルーティングネットワークの平均忠実度は82.4%だった。これらのデータから、この方式は量子アドレスによって制御されるコヒーレントかつ可逆的なルーティングを実現でき、より大規模なネットワークへ拡張できる可能性があることが分かった。
研究チームによると、今回の成果は、既存の超伝導ハードウエア上で拡張可能なQRAMを構築する新たな手法を示すものだという。また、中国の量子コンピューティング研究開発が、個別性能の最適化から、複雑な量子機能を実際のハードウエア上で実装・検証する段階へ進んだことを示している。量子デバイス自体の特性を活用することで、より低コストで効率的な演算が可能になり、量子チップと量子回路の協調最適化にもつながるという。
※本稿は、科技日報「"本源悟空"破解量子随机存储器扩展难题」(2026年9月3日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳・転載したものである。
