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【調査報告書】『第15次5カ年計画を控えた中国の産業・科学技術の現状と課題』

JSTアジア・太平洋総合研究センター 2026年05月27日

書籍イメージ

 科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『第15次5カ年計画を控えた中国の産業・科学技術の現状と課題』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy25_rr02

 

エグゼクティブ・サマリー

 本書は、2025年度調査研究会「第15次5カ年計画を控えた中国の産業・科学技術」の報告書である。第14次5カ年計画(以下、14・5計画)の最終年にあたり、産業・科学技術分野を軸に5年間の成果を総括すると同時に課題を整理して、2026年から開始される第15次5カ年計画(以下、15・5計画)期における産業・科学技術政策や産業・企業の今後を展望することがその目的である。

 前半部では、マクロな視点から14・5計画期における国内経済・対外経済の動向、対米国関係の推移を振り返り、それが産業・技術政策に与えた影響と明らかになった課題について分析した。後半部では、委員の専門性を活かして、地方政府のイノベーション政策や個別産業、企業のケーススタディを行い、メゾマクロ、ミクロレベルでの実証分析を試みている。

 第1章(大西康雄)は、第1に、14・5計画目標の達成度の視点から経済運営を振り返り、その課題を分析する。本計画は、「双循環」戦略を基軸に設定した目標をある程度達成した。しかし、マクロ経済運営では、同戦略の意図に反して輸出依存の成長や過剰生産力の形成という課題も残している。第2に、「質の高い発展」の新しい定義づけが行われ、「ハイテク、高効率、高い品質」を特徴とする「新質生産力」育成が提起された。この「新質生産力」のフロントランナーとして、「新三様」(EV、太陽光パネル、リチウムイオン電池)産業や米国の技術的封鎖を突破する企業(DeepSeekなど)が出現している。

 第2章(大橋英夫)は、14・5計画期の対外経済関係を分析している。本計画期には当初の意図に反し輸出主導型成長が再現される一方、構造的変化が生じた。第1に、中国の対米輸出は減少したが、ASEANやUSMCA経由の「迂回輸出」が増加した。対欧州でも類似の変化が生じており、中国と米国市場・欧州市場との間を仲介する地域・諸国は「コネクター経済」と呼ばれている。第2に、貿易構造が多角化・多様化した。「一帯一路」関係国の存在が拡大し、製品別ではハイテク製品のシェアが伸びている。第3に、輸出拡大の背景として中国特有の過剰生産能力問題が指摘される。特に本計画期後半期における国内需要の低迷と期を同じくして「新三様」など「新質生産力」産業の供給能力が拡大し、低価格化したこれら製品が過剰に輸出された、という構図が指摘される。

 第3章(伊藤信悟)は、14・5計画期の米中ハイテク対立と国際的影響を論じる。第1にはその経緯である。米国は第1次トランプ政権、バイデン政権、第2次トランプ政権と対中国政策に振幅がみられるが、中国の対米政策は一貫している。第2に両国のチョークポイントの確認である。中国の対米チョークポイントは先端半導体・同製造装置、飽和非環式炭化水素(エタンなど)、航空ジェットエンジンなどである。米国の対中チョークポイントは、レアアースなど重要鉱物資源、電池セル、太陽光発電、医療品原料などである。第3に国際的影響である。米中対立は貿易摩擦、技術摩擦を内容とする「デリスキング」として第三国・地域に拡がっており、国際経済にとって大きな懸念材料となっている。

 第4章(高口康太)は、政府引導資金をケースとして、地方政府のイノベーション政策を分析する。イノベーション分野では米国式ベンチャー投資システムが普及している。地方政府もその一つの主役として政府引導資金を設立してイノベーション振興と企業誘致に注力している。深圳、合肥の例が分析されているが、特に後者は、同資金を企業誘致のテコとして使い、成功したことで他の地方政府のモデルとなった。両者ともイノベーション重視の運営で利益を上げている。15・5計画「建議」でも同資金により民間投資を呼び込み市場主導の成長をめざす方針が示されており、先駆的意義は大きいといえるだろう。

 第5章(丸川知雄)は、集積回路(IC)の自主開発の経緯を振り返り、そのジレンマを明らかにしたうえで、中国政府、企業がジレンマにどう取り組んだかについて分析している。当該分野では巨額の国家IC産業発展投資基金が注目されるが、その投資は先端分野より基盤的生産能力の拡充を重視していることが明らかにされる。特にAI用IC分野では技術力の高い企業は資本市場で資金調達できるため、公的投資を必要としていない。15・5期における展開を見ていく必要がある。

 第6章(金堅敏)は、Huawei社を取り上げて、企業レベルのイノベーションの展開と課題を分析している。同社は、米国による技術規制の標的となったことから14・5計画期の中国の困難を象徴するケースでもある。一時期は経営困難に陥った同社は、大胆なリストラ、経営資源の研究開発への集中をテコに乗り切り、自律的発展の基礎を確立した。中国の「自立自強」政策は、困難の中で一定の成果を上げたと評価できるが、同社はそのモデルである。15・5計画ではこの方向性がさらに強化されるだろう。

 以上、各章の分析によって、14・5計画期の中国の産業・技術の実態を見るうえで新たな視角を提供できたと考える。今後は、さらに問題意識を深め、15・5計画の方針と具体施策の分析に取り組んでいきたい。

 

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