『中国の知的財産権制度と運用および技術移転の現状』 書評

- 編著者:独立行政法人 科学技術振興機構中国総合研究センター
- ISBN: 978-4-88890-296-0 / CRC書籍番号: CRC-FY2009-06
- 発行日: 2010/01 Printed in Japan
- 商品の寸法: 29.7 x 21.0 x 1.2 cm
- 在庫: 無し
書評:
馬場錬成 東京理科大学知財専門職大学院教授
世界の工場と言われる中国は、特許、実用新案、意匠、商標などの産業財産権の出願数、登録数は、年々右肩上がりに増加を続けている。実用新案、意匠、商標の出願数ではすでに世界トップであり特許出願数でもアメリカ、日本に続いて世界3位へと上昇してきた。
中国に進出した国際的な企業からの知的財産権の保護という当初の目的からすでに脱却し、近年は中国独自の基礎的研究の進展と産業技術の進歩から生み出された知的財産権の確保という傾向が一層強くなっている。
歴史的に見ると中国は、火薬、印刷技術、羅針盤、紙を発明した独創的な発想を持っている国と民族であり、イノベーションを起こすエネルギーを持っていた。清の時代の1898年(明治31年)には特許法が制定され、1904年(明治37年)には商標法、1910年(明治43年)には著作権法が公布されている。
その後、中国は長期にわたって騒乱と外国からの侵略などによって近代化に遅れをとったが、1978年の改革開放後の法治制度の確立に動き出したことで、ようやく知的財産制度の整備に着手されるようになった。
近代的な中国は、1983年に商標法、1985年に特許法(中国専利法)、1991年に著作権法を施行して、新しい知的財産制度整備に入ったが、特許法の施行から数えてもわずか24年しか経過していない。そのような知財歴史を考えてみても、あっという間に実用新案、意匠、商標の出願数で世界トップになり、特許出願でも日本に次ぐ位置につけるようになったことは驚くべきことである。
中国特許法は、2008年末に3回目の改正を行い、2009年10月1日から施行され、今まさに実施・運用をめぐって国際的な知財関係者の間で熱い論議が展開されている。先進国型にさらに近づいたとはいえ、国際的な水準から見るとまだ不十分な点も指摘されよう。
しかし、中国の知的財産制度とその運用、技術移転の取り組みなどは、急進的に先進国型になってきており、2007年の中国共産党第17回全国代表大会では「知的財産権戦略の実施」を重点的に進める報告書が出され、2008年4月には国務院常務委員会で「国家知的財産権戦略大綱」が策定された。中国の知的財産権に取り組む機運は、ますます高まってきている。
このような状況を踏まえて、今回、中国を代表する知的財産権研究者と実務家14人による論文を特集することになった。その内容は、国政的に論議されている知的財産に関する論点を捉えながら、中国の特殊事情を加味して論評したり、制度についての課題などを明解に示している点でどの論文も読み応えがある。
また産業界を代表する形で、中国でこの数年、特許出願数でトップを維持し2008年の特許協力条約(PCT : Patent Cooperation Treaty)の国際特許出願数で世界トップに躍り出た華為技術有限公司の知財部長が寄稿するなど興味ある論文で埋まっている。
2009年6月末の中国の外貨準備高は世界1であり、産業競争力はさらに強くなっている。2007年からは、日本の対中国の貿易額が総額の18パーセントを占めて日本の最大の貿易相手国でもある。
そのような中国の産業動向と日本との結びつきを考えると、中国の知的財産権を巡る動きと進展は、目を離せないテーマになってきた。日中の知財交流を考える上でも楽しみなテーマである。

馬場錬成(ばば れんせい):
1940年 東京都生まれ。東京理科大学理学部卒業後、読売新聞社入社、編集局社会部、科学部、解説部を経て論説委員。2000年11月読売新聞社退職。現在、東京理科大学知財専門職大学院教授。他に特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、知的財産国家戦略フォーラム副代表、日本弁理士会アドバイザリボード委員、千葉県、埼玉県の知財戦略に関する委員などを務める。著書に「中国ニセモノ商品」(中公新書ラクレ,2004年) 「変貌する中国の知財現場」(日刊工業新聞社、2006年)、「知財立国 日本再生の切り札100の提言」(共著、日刊工業新聞社、2002年)、「知的財産権入門」(法学書院、2004年)、「大丈夫か 日本の産業競争力」(プレジデント社、2003年)など多数。
