2023年10月23日-10月31日
トップ  > 科学技術ニュース >  2023年10月23日-10月31日 >  パンダの個体群回復をサポートする野生復帰

パンダの個体群回復をサポートする野生復帰

2023年10月23日

 中国四川省都江堰市の市街地から1時間ほど山道を走ると、中国ジャイアントパンダ保護研究センター臥竜核桃坪基地に到着する。ここは寒暖な気候で、雨が多く湿度が高く、野生パンダの生存環境や飼育パンダの野生復帰訓練に非常に適している。人民日報が伝えた。

 飼育パンダの野生復帰は同センターが初めて生み出した重要技術で、主に野生復帰訓練、野生復帰、モニタリングなどの段階に分かれる。長年の間、何世代にもわたり研究者は心血を注ぎ、パンダの野生復帰訓練とモニタリングの技術体制を構築し、実践の中で高い効果を発揮している。

野生復帰は野生パンダ個体群の回復と再建の重要手段

 同基地の野生復帰訓練エリアには、職員が踏み固めて作った小道以外には人類活動の痕跡はほとんど見られず、原始的な生態を保っている。生い茂る木々の間で、パンダの「博斯」が子パンダと一緒に眠っていた。近くでは「パンダ服」を着用した飼育員がこの時間を利用して、急いで小屋の清掃を行い新鮮な竹を補充していた。

 同基地野外研究動物管理部の何勝山部長は「人の匂いを隠すように、パンダ服にはパンダの糞と尿の抽出物をスプレーしている。飼育パンダは飼育員に親しみ、依存しているが、野生復帰訓練中は飼育員が常に身を隠さなければならない」と説明した。

 野生復帰は野生パンダ個体群の回復と再建の重要手段であり、パンダ保護にとって重要な意義を持つ。

 雄の亜成体のパンダ「祥祥」は2006年4月、単独野生復帰訓練を経て野生に戻された。ところが職員は1年もしないうちに雪の中でその死体を発見した。分析・研究の結果、「祥祥」は野生パンダと縄張りと食料を争い、高所から落下して死んだと判断された。

 同センターは「祥祥」の野生復帰の失敗例を総括し、▽適切な学習対象の不足により野外での生存能力が不足した▽野生に放ったエリアは個体群の数が飽和しており、十分な生存空間が足りなかった▽野生の大人の雄パンダは縄張りと配偶者の争いが非常に激しく、「祥祥」は戦いの経験が不足して負けた、との可能性を示した。

 経験を総括した上で、努力を重ねていく。飼育パンダ個体群の数が安定的に増加すると、同センターは2010年に、飼育パンダ野生復帰訓練第2期プロジェクトを開始し、そして「母が子を率いる」という野生復帰訓練の新たな方法を打ち出した。

誕生後、直ちに生存スキルを学ぶ

 パンダの成長と行為の発育の特徴に基づき、野生復帰訓練は2つの段階に分かれる。生後間もなくから1歳頃までは、約2000平方メートルの小型訓練エリア内で母乳を飲む。1歳頃から野生復帰前までは、20万~30万平方メートルの大型訓練エリア内で、自ら竹を食べることを徐々に覚える。大型訓練エリアでは、パンダの野生生息環境に置かれる。高い喬木、生い茂る竹林、そして複雑な地形があり、完全に自然の状態にある。

 長期的な実践と研究の基礎を踏まえ、同センターは「母が子を率いる」という画期的な訓練を実施した。何氏は「子パンダは誕生後間もなく母パンダと暮らし、大自然で食料と水源を探して天敵を避けるといった生存スキルを徐々に学ぶ。飼育員は何日かけてもパンダに木登りを教えられなかったが、今やパンダの母が口で子を木に押し上げると2回で覚えるようになった。パンダは一連の訓練と専門家の論証・評価を経て、初めて自然に帰ることができる。その時2~3歳のパンダは乳離れしているが、大人になる前の段階であり、亜成体として野生のパンダ個体群により溶け込みやすい」と述べた。

 赤ちゃんパンダのために、人為的な活動の影響を極力減らす必要がある。飼育員の張大磊氏は「飼育員は母パンダに餌やりをするたびにパンダ服を着用し、子パンダの人間への依存を避ける。人間を察知すれば自ら近づくのではなく回避させる。こうしてはじめて順調に密林に戻れる」と述べた。

 研究者の韋華氏はパンダの野生復帰訓練で命を落としかけた。天台山で訓練を受けた子パンダ「八喜」は2016年12月、野生復帰の年齢に近づいていたが、2日続けてその姿が確認されなかった。韋氏と同僚は心配し、訓練エリアに入り捜索した。すると思いがけず、子を守ろうとする母パンダ「喜妹」から襲われ、重傷を負った。それでも、韋氏は「喜妹が私に噛み付いたのは、野性的で母性が強いためだ。これはまさにパンダ野生復帰の目標だ」と述べた。

パンダの野生復帰が微小個体群の遺伝多様性を改善

 野生復帰後のパンダの生存状態はどのようにモニタリングするのだろうか。

 同センター調査モニタリング所シニアエンジニアの謝浩氏は「野生復帰の際にパンダに追跡・モニタリング可能な電子首輪を取り付け、衛星信号によりその活動の軌跡や健康状態などの情報を追跡する。ただ、首輪は1年半ほどで取れてしまい、長期的な追跡とモニタリングが不可能だ。赤外線カメラや糞の採取などによって、さらに多くのデータを集めなければならない」と説明した。

 同センターは現在まで11頭の飼育パンダの野生復帰を行っており、うち9頭は生存している。そのうち7頭は絶滅の恐れのある小相嶺山系野生個体群に、2頭は岷山山系野生個体群に溶け込んでいる。野生復帰したパンダのうち雄1頭と雌4頭の計5頭が満6歳になり、繁殖可能な年齢になった。同基地の責任者である呉代福氏は「野生復帰したパンダが、野生個体群に溶け込み次の世代を育んで初めて、野生個体群拡大の目的を達成できる。しかし野生復帰パンダが次の世代を産んだ明確な証拠を見つけるには忍耐と時間が必要だ」と述べた。

 中国は現在、国家公園における宇宙・上空・地上一体化モニタリング体制を構築中だ。同センター調査モニタリング処の楊建処長は「これを契機に、パンダ野生復帰のエリア内でカメラや赤外線カメラなどのモニタリング設備を増やし、大空間モニタリング能力を高める。同時に首輪の研究開発を強化し、バッテリーの耐用年数を延長させ、測位の精度を上げ、録音のリアルタイム伝送を実現することにより、パンダの野外動向などのより多くの野外生存情報を把握していく」と語った。

 
※掲載された記事、写真の無断転載を禁じます
 

中国科学技術ニューストップへ
上へ戻る