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第13回アジア・太平洋研究会「インドとの科学技術協力に向けて-政策・データと共同研究現場からみる科学技術状況」(2022年7月21日開催/講師:葉山 雅、平澤 泠、坪井 務)

日  時: 2022年7月21日(木) 15:00~16:45 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

登 壇 者: 葉山 雅、平澤 泠、坪井 務

講演資料: 以下の講演タイトルをクリックしてご覧ください。

YouTube [JST Channel]:「第13回アジア・太平洋研究会動画

調査報告書:
インドとの科学技術協力に向けた政策および研究開発動向調査

葉山 雅(はやま みやび)氏

横浜国立大学 研究推進機構・特任教員(講師)

インドにおける政策動向等に関する調査」(PDFファイル 2.30MB)

平澤 泠(ひらさわ りょう)氏

未来工学研究所・理事長、上席研究員

インドにおける研究開発の動向等に関する調査」(PDFファイル 3.92MB)

坪井 務(つぼい つとむ)氏

名古屋電機工業株式会社
新事業創発本部SATREPSプロジェクト・プロジェクトリーダー(博士)

インド工科大学と取り組んだインドの交通渋滞の解決に向けたチャレンジ」(PDFファイル 10.5MB )

第13回アジア・太平洋研究会リポート
「インドとの科学技術協力に向けて-政策・データと共同研究現場からみる科学技術状況」

インドは、近年、科学技術の面でも著しい発展が見られており、JSTアジア・太平洋総合研究センター(APRC)では、2021年度にインドの科学技術力に関する調査研究を実施した。

7月21日開催のAPRC主催の研究会において、同調査を担当した未来工学研究所の平澤泠氏、横浜国立大学の葉山雅氏に、その概要としてインドの政策や研究動向に関する講演をいただいた。また、JSTの地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)において、インドとの共同研究を実施してきた名古屋電機工業の坪井務氏には、プロジェクトにおける成果と共同研究現場から見たインドについて講演をいただいた。

(質疑応答の様子 左から時計回りで坪井、平澤の各氏と司会者)

成長をつづけるインドの科学技術、政策と強み・課題 (葉山氏)

葉山氏は、「インドは、非常に多様性に富んだ社会・文化を基盤とする民主主義国家である」とし、「行政システムが複雑で政策的統一が難しい面もあるため、政策検討の前提として日本とインドでは、ものの見方が異なることを意識する必要がある」と指摘した。

2014年にモディ政権が誕生した後、2015年からの5年間はインド政府がイノベーション創出に向けて多数の画期的な政策を進めた時期であった。この中で、インドの強みとして生産年齢人口割合の上昇による人口ボーナス/豊富なタレントプールの存在がある一方で、研究開発投資額の低さ/人口当たりの研究者の少なさ/産学官連携の脆弱さなどの課題もあることが述べられた。

2021年には、新たな「科学技術・イノベーション政策(STIP)」の原案が発表された。「自立したインドを目指して、急速に成長するインドに対応したものとなっている。特にビジョンとして、インドを今後10年間で科学超大国のトップ3にするという野心的なものである」と解説した。インドの分野別の科学技術投資では、伝統的に防衛・宇宙・原子力・農業に重点的に投資されてきた。それとともに、科学技術・イノベーション首相諮問委員会により9つのミッションが発表され、量子や人工知能など新興技術にも重点化する方針が示されている。

そのほか、インドの現状について解説を続け、研究開発投資の対GDP比は他の主要国と比較して低い0.65%であり、また部門別でも民間部門の投資割合が低い点が課題と考えられていること、一方で、研究論文数に関しては世界有数の成長を続けており、日本を抜いて世界第3位のシェアを占めるまでになっていることが示された。

インドの研究開発の世界での位置と特徴的な連携・成長分野 (平澤氏)

平澤氏は、インドの研究論文に関する分析結果を踏まえ、世界の中でのインド位置付けや成長分野、国際連携等について概要を述べた。

「研究論文の質については、トップ10%補正論文比率でみるとインドは計算機・数学分野や工学分野では日本より優れている。論文全体の量と質の両面で見るとインドと日本は近しい位置にある」と分析する。

また、インドのトップ1%論文の分析においては、「大分野では、工学分野/物理・数学分野/バイオ・アグリ分野は伸びており、医療分野/化学分野は成熟化の傾向が見られる。特に工学分野ではエネルギー・燃料、化学工学、環境工学の伸びが著しく、コンピュータサイエンスは成熟期にある」とした。

国際連携においては、インド国内のみで執筆された論文は3割程度であり、アメリカとの共著より若干少ないくらいまで伸びて来ているが、日本との共著は少ない状況にあることが示された。執筆者の順による分析により、インドがアメリカ・中国・英連邦諸国との国際連携における活動が活発であることが見えるが、サウジアラビアやイラン、マレーシア、トルコなどはインドとの結びつきが強く、また、ベトナムやパキスタンなど新興国間でのネットワークなどの特徴も見られたことが述べられた。

また、トップ論文の著者の所属について、インド工科大学(IIT)、科学産業研究委員会(CSIR)系列の研究所、国立工科大学(NIT)などが多いが、州立大学や私立大学、宗教系大学など多様な成立基盤の研究機関が活発な活動を行っていることが示された。

「インド工科大学と取り組んだインドの交通渋滞の解決に向けたチャレンジ」(坪井氏)

坪井氏は、2016年よりインド工科大学ハイデラバード校と交通渋滞を解決するための共同研究を実施してきた。インドの交通は、バイクやオートリクシャー、牛なども含め非常に混んでいることが困難性を高めている。この状況に対し、交通の実情把握には、センシングにより把握でき、そのうえでビッグデータを分析およびシミュレーションすることで、低炭素なスマートシティを目指した、複数の交通手段を可能にするマルチモーダルな社会の実現を念頭に実施されてきた。プロジェクトの実施にあたり、インド工科大学の画像認識技術および日本の交通解析や関連機器製造の経験といった両者の長所を組み合わせ、共同研究が推進された。

主要な交差点に関する解析では、「現地の協力もあり、インターネットを介して交差点から離れた大学キャンパスや日本側でのリアルタイム・リモート解析が可能であったことは、コロナ過の状況においても貴重であった」と坪井氏は述べた。インド工科大学の画像解析技術が非常に貢献し、日本側との協働により、車両やバイクの重なりの処理による認識精度の向上、360度カメラによる多方向やドローンを利用した上空からのセンシングなどの新たな方法が作られた。

(インドの交差点の画像認識による計測技術の開発:坪井氏発表資料より)

交通ビッグデータ解析おいては、現地の市役所(AMC)や交通当局と協力したことで、スムーズに交通データが取得でき、交通状況を可視化してフィードバックができた。また、現地の大学生などと協力して公共交通への意識に関する住民アンケートを実施するなど、現地と密着した研究が進められてきた。坪井氏は現地との共同研究による気付きとして、「バス交通については、乗降車の面倒さや発券方法、往来頻度などに課題があり、バスのみでなくリキシャーなどとの連携も必要であることが見えた。交通状況を伝える情報板についても、インドならではの多言語提供の必要性もわかった」と述べた。

インドでは、年間13万人が交通事故等で亡くなっており、「日本の経験も生かし、信号機を増やすことに加え、様々な施策を組み合わせることで貢献していけるのではないか」と締めくくった。最終的にはハンドブックを作成し、現地政府へのフィードバックを予定している。

インドとの科学技術協力に向けて

質疑応答において、今後のインドとの科学技術協力に向けて、3名より次のような視点が提供され締めくくられた。

平澤氏より「日本の欠点は国際的な連携がうまく展開できていない点にあり、インドに限らず連携を進めなければならない。その中で、これから大きく発展するポテンシャルのあるインドは重要なターゲットであり、彼らのアクティビティを育て、協力しながら日本も恩恵をうけていけるような、戦略的な取り組みが必要であると考える」

葉山氏より「日本とインドは対照的な文化・社会の国であり、相互の協力で今までなかったものを生み出せる可能性がある。国際共同研究は、もともと留学等をしていた折の関係があり、そこから広がるケースが多いため、個人ベースの人的交流を大事にしていかなければならない。留学生を受けいれつつ、キャリアパスや連携の中でどう活躍できるのかも考えていくべきである」

坪井氏より「5年間の共同研究プロジェクトの経験から、インドに対してしっかり日本側からアプローチをしなければならないと感じた。日本側で困っている点があれば襟を開いてよく話すと、行政も真摯に話をしてくれることがあった。日本人とインド人は得意とするところが違うのでうまく組み合わせると素晴らしい活動が可能になると考える。インド人は若干時間に対する観念が薄いせいか、工事が遅れることもままあるが、ジュガード※精神でなんとかしてくれる。日本側は、まずチャレンジをすること、上から目線でなく我々に何ができるのか一緒に考えることである」

今後も、インドの多様なポテンシャルを活かしながら日本がどのように連携していくか、検討の必要性と可能性が示された。

※ジュガード:ヒンズー語で制約の中でも何とか対応することを意味する用語

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター 主査 小長井敬介)


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