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第14回アジア・太平洋研究会「中国における研究開発システムの改革動向と今後の展望―卓越した研究成果の創出を目指して」(2022年9月29日開催/講師:松田 侑奈、茶山 秀一、横山 聡)

日  時: 2022年9月29日(木) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

登 壇 者: 松田 侑奈、茶山 秀一、横山 聡

講演資料: 以下の講演タイトルをクリックしてご覧ください。

YouTube [JST Channel]:「第14回アジア・太平洋研究会動画

調査報告書:
中国における科学技術人材の育成・支援戦略

松田 侑奈

講演(1)

松田 侑奈(まつだ ゆうな)氏

JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー

中国における研究開発システムの改革―トップ人材育成戦略は成功になるか」(PDFファイル 2.18MB)

講演(2)

茶山 秀一(ちゃやま ひでかず)氏/横山 聡(よこやま さとし)氏

JST 北京事務所 所長/副所長

中国における最近の動向について」(PDFファイル 2.22MB)

第14回アジア・太平洋研究会リポート
「中国の研究開発システム改革は成功するか?」

中国の研究開発は近年著しい成長が続いており、2021年の研究開発費は第14次五カ年計画の目標を上回る14.2%増となった。また研究者数も一貫して増加を続け、制度改革で独創性ある研究を支援する環境へと変化が進んでいる。目覚ましい変化と発展を続ける中国の研究開発システム改革は成功するのか。JSTアジア・太平洋総合研究センターでの2つの調査結果を基に、3氏が議論を交わし、その行く末が展望された。

(質疑応答の様子 左上から時計回りで横山副所長、司会者、松田フェロー、茶山所長)

研究者の裁量を高め、独創性ある研究を促進

中国の研究開発システム改革を調査した松田侑奈フェローによれば、中国では習近平政権の発足した2013年以後、研究プロジェクト申請から研究評価まで広範な改革が進められた。最も強く打ち出されているのが「基礎研究の強化」と、従前から取り組まれる「研究環境の改革」である。

政策的には第13次5カ年計画以来、中国 国家自然科学基金委員会(NSFC)の審査基準に「オリジナリティ」「最前線」が設定され、研究の独創性が追求されている。また研究評価では、かつて四唯(論文数、職歴、学歴、受賞歴)を重視してきたところ、若手研究者の活躍を促す目的で、論文の質(被引用度)、業績、社会貢献など、実力を重視する方向へ改革が進んだ。

研究公正の担保に際しては、定期的な検査を減らし事務負担を軽減した。しかしランダムな検査における不合格や不正の発覚時には終身責任制を敷き、研究キャリアが事実上途絶えるように設計されている。

プロジェクト申請に際しても、全面オンライン化が推進され、研究以外の校務、事務、書類事務の負担が軽減された。また獲得した研究費の使用面でも、「包干制(ホウカンセイ)」の導入で、経費使用の柔軟化や申請手続の簡素化が進められ、各費目枠で間接経費割合が増強された。単年度執行の原則などでは日本と共通するが、余剰金の取り扱いは柔軟で、プロジェクト終了後2年間は現場判断で後続の研究費として使用でき、検査に合格すれば余剰金の返還は不要となる。

大学と共産党の関係性にも改革が進められた。元来、党の方針に照らした監督指導で行政機関の権限が大きかったところ、各大学に権限を委譲し行政的介入を弱める改革が進んでいる。

研究者からみて、こうした権限と裁量の拡大の影響は大きい。JSTによるアンケートでも中国で活動する複数の研究者から恩恵を実感する声を得ており、待遇や報酬に対する満足度も高いという。

世界に通じるトップ人材を国内外で育成

松田フェローは調査において、上述の制度改革と共に、政策のインプットである「ヒト・モノ・カネ」要素のうち、人材育成改革に注目した。

中国で研究者が増加する背景には、国内での大学院生募集人数の増加のほか、大学院生集計方法の変更、すなわち、2017年から非全日制の修士も含むよう制度が変更されたことが挙げられる。中国の大学院制度には、主に職業人となる専門修士(2年制)と、博士後期課程への進学を念頭に置く学術修士(3年制)が存在し、研究人材の育成にも貢献している。

また海外での学位取得も盛んだ。米国の留学トレンドを調査したSEVIS By the Numbersによれば、中国からアメリカ合衆国(米国)への留学人数は、新型コロナ禍の影響のない2019年まで一貫して増え、全体の37.3%(2019年)、34.7%(2021年)と最多を占めた。並行して、いわゆる「海亀政策」により、海外にいる中国籍人材の呼び戻しも推進されてきた。

トップ人材の育成が進む背景として、松田フェローは「かつては中央政府によるトップダウン型政策が専らでしたが、現在はトップダウンとボトムアップの組合せにより研究開発が推進されています」と、中央-地方関係の変化を指摘する。地方政府による研究開発費の支出は2007年から中央政府を上回り、2020年には中央の2.38倍となった。また、基礎研究においては、北京市、上海市、山東省、広東省などの大都市の貢献が大きく、近年の地方の発展は実に目覚ましいといえる。

人材育成をめぐる状況について、JST北京事務所にて現地で情報を得ている茶山秀一所長は「科学技術システムの相互依存」と位置付ける。米国の研究開発力は移民や外国籍研究者、留学生に大きく依存している。中華系姓の特質から流動性を正確に掴む難しさはあるが、特に中国から流入するトップ人材が科学研究の発展を支えているという。「米国 安全保障・先端技術研究センター(Center for Security and Emerging Technology: CSET)が2020年に公表した調査によれば、同国の博士号取得者の国籍内訳は、自国出身者が55%、特に中国出身者はどの分野でも10%から25%です。うち中国出身の博士号取得者は、9割が米国にとどまる意向を示しています」(茶山所長)。

基礎研究の強化は今後進むか

中国では政策や改革が地方へ普及していくのは早いと見込まれる一方で、今後、新しい研究評価システムが定着していくのか注目されると言う。さらに、松田フェローは、先述の研究システム改革による基礎研究の強化について、「基礎研究の比率は研究開発費全体の5%程度と、10-15%前後を示す主要国に比べると、依然として少ない。ただ、そうした割合だけでは評価できず、中国の基礎研究は今、模索段階にあるため、順調にシェアに伸ばしていく可能性がある。時代の変化に合わせた柔軟な政策の調整と普及の速さが強みである中国では、基礎研究の強化もポジティブに捉えていいと考えられる。」と述べた。

北京で茶山所長とともに現地での情報収集にあたる横山聡副所長は「中国では『研究開発が明日の自分たちの生活を豊かにする』という観点が共有されているように思います」との率直な実感を述べる。沿岸部の富裕化や世代交代による価値観の変化に伴い、基礎研究へのニーズも高まるとみており、更に技術的なデカップリング(切り離し)がこれを加速するのでは、と期待する。

視聴者からの質問を受けて、茶山所長は「北京と上海など、地方同士の対抗意識が見られることもあるかもしれませんが、競い合いつつ、世界のアカデミアを意識して国内で協力できていくと、総じて好循環につながるのではないでしょうか」と述べ、会は締めくくりを迎えた。

時として様々な国際的な摩擦がありつつも、中国の量的発展やその活気には疑問の余地がない。改革の成果が生む新たな展開を注視したい。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 斎藤 至)


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