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第50回アジア・太平洋研究会 -科学技術イノベーションを巡る最新事情-
「中国AI産業の発展現状と将来展望」
(2026年1月30日開催/講師:邵 永裕)

日  時: 2026年1月30日(金) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 邵 永裕 氏
元みずほ銀行 中国営業推進部 特別研究員(Ph.D.)

講演資料: 「第50回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 4.0MB)

YouTube [JST Channel]: 「第50回アジア・太平洋研究会動画

邵 永裕(しょう えいゆう)氏

元みずほ銀行 中国営業推進部 特別研究員(Ph.D.)

略歴

1995年に京都大学大学院経済学研究科修士課程修了(経済学修士)、2001年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位修得後退学を経て2007年に東京大学博士(学術)学位取得。
2002年4月にみずほコーポレート銀行中国営業推進部戦略情報チーム研究員、2008年8月にみずほ銀行中国営業推進部調査役/研究員、2020年10月~2025年8月にみずほ銀行中国営業推進部特別研究員を歴任。
在任中に、「MIZUHO CHINA MONTHLY」、「CHINA BUSINESS MONTHLY」の主筆者として中国の地域開発戦略と産業政策の調査研究に従事。
執筆テーマは戦略的新興産業、デジタル経済、金融経済及び環境経済など多方面に及ぶ。
著書『中国の都市化と工業化に関する研究』多賀出版(2012年)。
雑誌論文「中国イノベーション戦略強化の成果概観と将来展望」『国際金融』外国為替研究会(2019年11月)、「中国のスマートシルバー医療と日系企業の参入」『日中経済ジャーナル』日中経済協会(2025年6月)、「中国のスマート製造の発展現状と将来展望」『国際金融』(2025年6月)等多数。


第50回アジア・太平洋研究会リポート
「中国AI産業の発展現状と将来展望」

AI技術の開発競争は、2026年に入っても留まることなく一層激化している。中国では、有力なスタートアップ企業の1つであるDeepSeekが廉価な高性能LLMを発表した2025年1月以降も、米国に肩を並べる成果が相次ぎ発表され、その他の諸国を大きく凌ぐ躍進をみせてきた。今回の研究会では、元みずほ銀行の邵氏をお招きし、エコノミストの観点から同国AI産業の現状と展望をご講演いただいた。

中国AI産業の育成促進策の展開

「中国製造2025」は、2049年を目標年として中国製造業のスマート化を3段階で目指す政策である。この政策に呼応して、工業インターネット(IIoT)については国務院指導意見が、AI産業の育成については次世代AI発展計画が、それぞれ同じく3段階で計画され(いずれも発表は2017年11月)、相乗効果が目指されてきた。2025年には「中国製造2025」の第1段階の成果が国外から評価され、大きな成果を挙げたと考えられる。

中国の政策がドイツや米国に比べ成果を示した要因として、産官学一体による長期的な計画と着実な取り組みの存在を無視できない。2023年以降、中国国内で大規模言語モデル(LLM)が相次ぎ発表された。同時に地方政府版の発展促進策も整備され、その数は2023~24年の2年間で25件に上る。同じく2023年には、人型ロボット産業の発展方向を基幹技術と主要製品・部品ごとに、経済発展と社会民生の2大分野・10大領域でそれぞれ具体的に明示し、促進策を講じてきた。2023年8月には「人工知能サービス管理暫定弁法」を施行し、AIの開発促進のみならず、いわゆるAIガバナンス(AIの適切な利活用に向けた監督・規制枠組み)にも注力し始めた。

中国AI産業の発展の現状

成長する中国AI産業の現状は、多様な調査の情報から総合して概観することができる。中国情報通信研究院(CAICT)によると、その産業規模は1.2兆元(2025年)に達し、2023年の約43%に次ぐ33.3%の増加率を示した。これにデータ産業を加えるとAI産業単体の増加率には及ばないが、ここ数年は約2割のペースで市場を拡大している。産業規模の拡大と同じく投資・融資からみても明確に増加し、2024年にはAI+データ産業に約650億元の投融資が行われた。またAI関連企業の登録数も急拡大し、2025年末には、AI専門企業に絞っても約6,000社に達している。

今日のAIブームを支えるLLMについてみると、開発主体は企業が45%、大学・研究機関が37%、産学共同開発が18%を占める。更に新興AI関連企業が手がける技術分野の分布は、ハード・ソフトなどの基礎に比べ各業界(産業ドメイン)での応用が最も多く、7割弱を占めている。基礎研究から産業の上中下流まで多様な主体が参入する状況から考えて、中国では既にAI産業のエコシステムが形成されていると言ってよい。

大規模言語モデルの開発と利用状況

中国ではLLMの研究開発が早期から取り組まれ、国内で実際のモデルが相次ぎ発表された2023年以降、市場規模の拡大が続いている。大手テック企業群のBATHや、DeepSeekなどの大学発スタートアップ、智譜AIや月之暗面、ミニマックスなどの新興スタートアップ、応用分野を手がける諸企業が業界を牽引している。

2024年の情報を基に、代表的なモデルの類別をみると、各企業の特徴(重点分野)や業界に基づく多彩な製品展開がみられる一方、地域別分布は、北京や上海などの都市圏に偏っており、産業の成長に関しての地域格差を示している。これらの内、機能別品質基準を満たした66の製品例は、汎用目的LLM(GPAI)、産業特化型LLM、端末用LLM(エッジAI)、クラウド・端末両用LLMの4つに類別でき、GPAIを展開するアリババ、百度、科大訊飛(iFLYTEK、アイフライテック)の3社が著名である。

LLMの利用目的について、個人消費者を対象に尋ねたアンケート結果によると、使途は質問応答(対話型)や議事録・会議資料作成、娯楽など多岐に亘り、世代間の差異も大きい。以前はDeepSeekの利用比率が最も高かったが、2025年時点では豆包が僅差で首位に立ち、人気を二分する。一方、法人での事業利用を含めたAI関連企業のビジネスモデルも、API呼び出し、専用ライセンス提供、課題へのソリューション提供、付加価値などへの多角化が進んでいる。この局面でも、産業エコシステムが基礎研究から産業の下流までつなぐ機能を果たしている。

産業ドメイン別にみたとき、中国発生成AIはどこに深く浸透しているのか。政府(ガブテック)・産業界・社会の一般的な利用水準で言うと、AIは作業効率の向上、データ収集、セキュリティ管理などで多い傾向にある。また、いくつかの調査を参考に応用成熟度・浸透度を測ると、製造業・エネルギーなどは両者ともに必ずしも高いとは言えない。但し、近年の政府発表ではこれらの産業ドメインにも徐々に浸透していると言われ、変化は速いと推察される。

全般的な課題として、モデルの多くはオープンソースや廉価な課金体系であるため、企業にとってマネタイズは容易でない。最近では、LLM一体化マシンの開発やエージェントAIの開発が進み、前者は広汎な分野へ、後者は政府業務へ急速に浸透している。更に、近年その高い完成度で注目を集める人型ロボット・AIロボットも、産業・社会の分野へ広い応用が期待される。今後は最新のマシンやロボットで裾野の広いAIの開発と利用が期待でき、政策的な促進も進むと考えられる。

国際比較にみる中国AIのイノベーション

スタンフォード大学の「AIインデックス報告書2025」では、中国AIの顕著な発展に注目し、国際比較を交えつつ現状を分析している。生成AIに関する科学論文の被引用数では、中国が全体の約23%と米国(約13%)を引き離し、2013年から10カ年のコンピュータ・サイエンス分野におけるAI論文総数の世界シェアでも、中国は米国を大きく上回っている。生成AIに絞った世界知的所有権機関(WIPO)の報告書では、特許出願件数で中国が突出して首位に立つ状況が確認できる。

このように中国は、研究開発の指標で米国を追い抜きつつあるばかりか、AIモデルの実際の性能でも拮抗し、性能差は2023年から2024年で急速に縮小している。民間AI投資額(2024年)で米国(1,091億ドル)は中国(93億ドル)と差があり、これが注目すべきAIモデルの件数差(米国40モデル、中国15モデル)に表れている状況ではある。しかし近年は、中国から製品コストを廉価に抑え、環境負荷も低いモデルが多数登場している。

中国AI産業の課題と将来展望

今や、世界の代表的なLLMはもっぱら米中企業が開発・公開し、二強競争の構図が明確である。2025年上半期には、最先端の推論モデルやマルチモーダルモデル、エージェントAIについても、先に触れた主要な中国企業から最新モデルが発表された。しかし中国AI産業はいくつかの課題を抱えている。

まず製品シェアで米中は世界を二分するが、AI人材や民間投資において中国は米国に及ばない。加えてモデル開発の方向性でも、中国発AIはオープンソースモデルが多く、課金体系も総じて廉価なため、モデル普及を通じた収益の確保に課題を抱えている。

中国AI企業は国内のみならず国外市場にも目を向けており、展開は活発である。但しそれら企業へのアンケート調査によれば、アクセス遅延や地域間データ連携の非効率性、計算資源の不足とコスト低減圧力、データ主権の不明確性(データガバナンス)等の課題に6割から4割の中国企業が直面しているという。

こうした課題を踏まえ、中国AI産業発展のための科学技術イノベーションの方向性は大きく3つに集約できる。まず直近の政府発表でも繰り返されている、単なる量的成長を超えた「新質生産力」の育成、次にデータ市場の整備を通じたAI産業の国内統合、最後に新興産業におけるAI活用である。これらを実現する手段として、国家・企業連携型のイノベーションが推進され、第15次5か年計画(十五五)の期間を通じた実施により、世界のAI市場における競争力の強化が図られるだろう。国の研究・教育・産業応用を統合的に進めるうえで、AIは中心的役割を担う技術となることが見込まれる。

(文:アジア・太平洋総合研究センター フェロー 斎藤 至)


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