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第53回アジア・太平洋研究会 -科学技術イノベーションを巡る最新事情-
「中国経済の行方 — 「弱さ」と「強さ」の意味すること」
(2026年4月17日開催/講師:福本 智之)

日  時: 2026年4月17日(金) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 福本 智之 氏
大阪経済大学 経済学部 教授

講演資料: 「第53回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 3.8MB)

YouTube [JST Channel]: 「第53回アジア・太平洋研究会動画

福本 智之(ふくもと ともゆき)氏

大阪経済大学 経済学部 教授

略歴

1989年日本銀行入行。2000年在中国大使館一等書記官として中国金融経済の調査と当局とのリエゾンを担当。
2010年日本銀行国際局総務課長、2011年国際局参事役(IMF世界銀行東京総会準備を担当)、2012年北京事務所長、2015年北九州支店長、2017年国際局審議役(アジア関係総括)、2020年国際局長を歴任、2021年日本銀行退職を経て、同年大阪経済大学経済学部教授に就任。
株式会社経営共創基盤シニア・フェロー。
著書に、『中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス』(単著、日本経済新聞出版、2022年6月)、『中国の政治体制と経済発展の限界: 習近平政権の課題』(共著、2025年5月、文真堂)他。
1989年京都大学法学部卒、1995年香港中文大学、1996年対外経済貿易大学留学、2008~2009年ハーバード大学ケネディ行政学院フェロー。


第53回アジア・太平洋研究会リポート
「中国経済の行方 — 「弱さ」と「強さ」の意味すること」

中国経済は、不動産不況の深刻化、地方財政のひっ迫、若年層の雇用問題といった構造的な「弱さ」を抱える一方、製造業の国際競争力向上やAI・人型ロボットなど新産業の台頭といった「強さ」も併せ持っている。今回は中国経済に詳しい大阪経済大学経済学部の福本智之氏に中国経済の現状と先行きについてご講演いただいた。

中国経済の景気動向、政策の見通し

中国経済に対する見解は様々である。マクロ経済に着目する専門家は中国経済の「弱さ」が目立つ需要面に注目しやすく、ミクロ経済や産業に着目する専門家は中国経済の「強さ」が目立つ供給面や競争力に注目しやすい。いずれも事実であり、現状は「外需は強く、内需は弱い」という構造が顕著である。

貿易面では、輸出は総じて堅調である。米国の対中関税が懸念されたものの、前年は前年比5%増となり、今年1~2月も拡大した。3月は反動で減速したが、新興国向け直接投資拡大に伴う設備機械・中間財の輸出が下支えとなり、プラス成長は維持している。輸入では、イラン情勢を背景に原油・金属資源・石炭など戦略物資の備蓄目的とみられる動きが見られる。

一方、内需、とりわけ消費が弱い。2026年1~2月は春節休暇延長の影響で一時的に持ち直したが、3月には再び減速した。前年度は耐久消費財の買い替え補助金により家電・自動車の消費が伸びたが、今年はその効果が一巡して減少している。実質工業生産がコロナ前のトレンドを概ね維持する一方、小売売上高は下回っており、供給能力の拡大と需要の伸び悩みが同時に進行している。ただし、消費者関連指標には下げ止まりの兆しもあり、消費の伸びは前年並みか、もしくは前年の伸びをやや弱い水準が見込まれる。若年層調査失業率は2026年2月に低下したが、持続性には不透明感が残る。

投資については、昨年の固定資産投資が前年比3.8%減となった。反内巻の流れや、昨年第4四半期までに5%の成長目標達成が見込まれたことから、インフラ投資を中心に抑制されたためである。一方、第15次5か年計画の開始後は、109件の重大プロジェクトを中心に持ち直しつつある。不動産開発投資は引き続き大幅なマイナスで、不動産不況は継続している。

政府活動報告では、2026年の実質GDP成長率目標を4.5~5.0%に設定した。第15次5か年計画では、「経済規模倍増」から「一人当たりGDP倍増」へ目標が修正され、人口減少を考慮した現実的な下方調整と考えられる。2035年までに一人当たりGDP2万ドル(中位先進国水準)の目標を達成するには、年平均4.17%の経済成長が必要とされるが、人口減少や足元の需要面の弱さを考慮すると達成は容易ではない。

財政政策では、幾分拡張的になるとみられる。2026年予算の広義財政赤字の対GDP比率が8.1%と昨年実績の同7.9%か幾分拡大するほか、「新型政策性金融ツール」と呼ばれる日本の過去の財政投融資に似たスキームも拡大する方針にあるからである。また、政策の重点は、昨年の消費重視から、消費と投資の両方を重視する方針へと変化したが、実態は投資を重視する政策に見える。

2026年の目標成長率4.5%以上はおそらく達成可能とみられるが、イラン情勢の悪化が長期化すれば、原油価格上昇を通じた負の影響が出る可能性もある。

中国経済の「弱さ」

中国経済を巡ってはしばしば「中国経済は日本化するのか」という問いが提示される。1990年代の日本と比較すると、低インフレの長期化、人口減少、不動産市場低迷への対応遅れといった点で共通する。一方、企業の国際競争力は大きく異なり、中国は多くの産業で競争力を高めている。

共通点は主に需要を弱める要因であり、とりわけ人口問題の影響が大きい。国連予測では出生率見通しが下方修正され、人口減少と高齢化は想定以上の速度で進む可能性が高い。近年、中国での発展が目覚ましいAI・DX・産業ロボットは供給面の代替になり得るが、需要を補うことはできない。第15次5か年計画では出産支援策が強化されたが、効果は限定的とみられる。

住宅市場では、商品住宅販売面積は2021年の14.1億㎡から2025年の7.3億㎡へとほぼ半減した。不動産業界が2025年時点で抱える建設中および完成住宅の在庫の合計は、年間不動産販売面積の約7年分に相当する約50億㎡ある。このような不動産市場の不況により「逆資産効果」が生じ、家計の預金の増加や借入低調を招いている。今年の政府活動報告では新規供給の抑制や在庫削減に言及されているものの、本格的なてこ入れ策は見られず、現状は地方政府の対応にとどまっている。不動産市場の不況や需要の弱さは今後も続くと見込まれる。

中国経済の「強さ」

他方、中国経済の「強さ」として近年顕著なのが、製造業における国際競争力の向上である。その背景には、理工系人材の量的・質的な優位性がある。2020年時点で中国の理工系大学卒業生は年間357万人超と世界最大規模であり、2025年には500万人に達すると見込まれている。これらの人材が激しい競争環境の中で産業のサプライチェーン全体に配置されていることが、競争力の向上に大きく寄与している。

また、自然科学分野における論文数や高被引用論文のシェアは既に米国を上回っており、自動車、ロボット、電池、半導体などの主要産業においても市場シェアは拡大している。国内自動車市場では、中国系メーカーのシェアが2025年には7割近くまで上昇しており、日系メーカーは戦略の見直しを迫られている。

第15次5か年計画では、「現代化産業体系の構築」「科学技術の自立自強」「デジタル中国の深化」という方針が計画の最初に挙げられており、中国の産業・科学技術強化の姿勢が明確である。「ペティ・クラークの法則」では、経済発展に伴い第二次産業(製造業)から第三次産業(サービス産業)へ比重がシフトしていくとされるが、中国では近年、第二次産業の比率に大きな変化は見られず、引き続き製造業重視の方針が維持されている。さらに、「AI+」行動計画に象徴されるように、AIを中心とした産業支援が進められており、中央政府によるAIなどの新質生産力への支援の下で地方間競争が続く構図は今後も変わらないとみられる。

中国経済の行方:「弱さ」と「強さ」の意味すること

今日の中国経済には、問題先送り、低インフレ、人口減少といった1990年代の日本と共通する要素があり、これらは総需要を「弱める」方向に作用している。一方、都市化の余地や企業の高い国際競争力・イノベーション能力といった日本と異なる要素は、総供給を「強める」方向に作用している。この組み合わせにより、需給不均衡が一段と拡大している。

国内では供給重視の政策により物価の基調は弱く、設備稼働率も2016年の過剰生産能力問題時に近い水準まで低下している。製造業では内巻による過当競争により国際競争力の向上が見られるが、企業の収益性悪化などが見られ、疲弊気味の状況と考えられる。

また、中国は巨大な国内市場を背景とした「自国市場効果」により、低付加価値から高付加価値のものまでを網羅する包括的なサプライチェーンを国内に形成している。

需給不均衡を背景に、2025年の貿易収支黒字は1.2兆ドルに達した。貿易不均衡に対応するためにEUは今年3月に、EU製品優遇の方針を示した「産業加速法」を発表し、新興国の中国に対するアンチダンピング措置やセーフガードも近年急増している。中国側も一部財について輸出を許可制にするなどの輸出自主規制や緩やかな人民元高の容認などの対応を進めているものの、国内の需給不均衡が対外不均衡へと波及する構造の解消は容易ではないと考えられる。

日本企業の中国ビジネス

最後に、日本企業の中国ビジネスへの影響を考える。中国内需の弱さにより市場全体の拡大ペースが鈍化する一方、中国企業の競争力は向上しており、日本企業の事業環境は厳しさを増している。

各種アンケート調査によれば、現地日系企業の業況は総じて厳しいものの、足元では売上高や景況感に小幅ながら改善の兆しも見られる。また、中国を重要市場と位置付ける企業の比率は大きく変化しておらず、日本企業の中国での事業展開意欲の下げ止まりや中国ビジネスへの進出意欲は若干改善している。

現地日本企業へのヒアリング結果を整理すると、日本企業のスタンスは多極化していると言える。すなわち、中国市場を競争力強化の場と位置付ける企業、投資を抑制する企業、撤退・縮小を進める企業、新規参入を図る企業などに分化している。各企業は戦略を練るとともに、中国市場からの学習を通じて新たな勝ち筋を見いだす余地もあると言える。

最近の日中関係の影響については、日中間のフライトの大幅削減は顕著だが、経済全体への影響は現時点では限定的である。輸出管理の強化に伴い、輸出審査の長期化や一部不許可事例も報告されているが、中国商務部が「民生用途には影響しない」と述べているように、現時点では限定的な影響にとどまっている。しかしながら、今後の日中関係の動向には引き続き留意が必要であり、日本企業は情報収集と変化に応じた対応が求められる。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 渡辺 浩司)


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