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第54回アジア・太平洋研究会 -科学技術イノベーションを巡る最新事情-
「経済安全保障のカギを握る鉱物レアアース」
(2026年5月21日開催/講師:嶌峰 義清)

日  時: 2026年5月21日(木) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 嶌峰 義清 氏
(株)第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 シニア・フェロー

講演資料: 「第54回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 2.3MB)

YouTube [JST Channel]: 「第54回アジア・太平洋研究会動画

嶌峰 義清(しまみね よしきよ)氏

(株)第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 シニア・フェロー

略歴

1990年3月 青山学院大学経済学部卒
1990年4月 岡三証券入社 岡三経済研究所を経て
1992年 日本総合研究所入社 日本経済研究センターへ1年間出向を経た後
1998年5月 第一生命経済研究所(現 第一ライフ資産運用経済研究所)入社
米国経済、日本経済担当などを経て金融市場全般、地政学的リスクを担当
2011年4月 首席エコノミスト
2018年6月 取締役・首席エコノミスト
2021年4月 常務取締役・首席エコノミスト
2024年4月より現職


第53回アジア・太平洋研究会リポート
「経済安全保障のカギを握る鉱物レアアース」

レアアースの製造・精製は中国への依存度が極めて高く、近年の米中摩擦や輸出規制措置を通じて、その供給リスクが経済安全保障上の現実的課題として顕在化している。特に近年は、半導体、EV、再生可能エネルギー、防衛産業などを巡る国家間競争が激化しており、レアアースは単なる資源ではなく、「戦略物資」としての性格を強めている。各国では供給網強化や「脱中国依存」に向けた動きが加速している。また、日本近海の南鳥島沖では巨大鉱床の存在も確認されている。

このような状況を踏まえ、当センターでは、第一生命経済研究所 経済調査部 シニア・フェローの嶌峰義清氏をお招きし、レアアースを巡る国際動向、日本の立ち位置、そして今後取るべき戦略についてご講演いただいた。

一、レアアースはなぜ重要か

嶌峰氏はまず、レアアースとは何か、なぜ重要なのかについて元素記号表からみた元素の特徴から説明した。嶌峰氏によれば、レアアースはレアメタルの一種であり、周期表の第3族のスカンジウム、イットリウムと同族第6周期に位置するランタノイド系元素を合わせた17元素を指す。名称に「レア(希少)」と付くものの、必ずしも地球上に極端に少ない資源という意味ではなく、元素同士の化学的性質が周期表の同じ族に属して非常に似ているため、分離・精製が極めて困難であり、近年まで各元素を単体で上手く取り出せなかったことからこのような名称になったという。

また、レアアースは単独で存在するのではなく、鉱石中から採掘・選鉱・浸出・分離精製・金属化といった複雑な工程を経て製造される。この過程では大量の薬品や有機溶媒を使用するほか、放射性副産物や廃液処理への対応も必要となるため、環境負荷やコストが大きい点も課題として挙げた。特にレアアースの総コストの8~9割は分離・精製工程が占めるとされ、中国が強みを持つ背景には、大規模設備による大量処理能力や低コスト体制があると説明した。

その上で、嶌峰氏は、レアアースはEV(電気自動車)や風力発電、半導体、スマートフォン、家電、ロボット、防衛装備など、現代のハイテク産業を支える不可欠な素材であり、とりわけ高性能モーターや永久磁石にはネオジムやジスプロシウムなどが重要な役割を果たしていると説明した。風力発電用タービン、EV駆動モーター、MRI、レーザー、通信機器など幅広い用途で利用されており、省エネルギー化や脱炭素社会の実現にも不可欠な資源であるという。

さらに、脱炭素化の進展に伴い、再生可能エネルギーや蓄電池関連分野で需要が急増する見通しである一方、生産能力の拡大が追いつかず、将来的な供給逼迫リスクが高まっているとの認識を示した。IEAの予測では、2050年に向けてレアアース需要は大幅に増加する見込みであり、とりわけクリーンエネルギー関連需要が成長を牽引すると説明した。

二、中国依存と経済安全保障上のリスク

次に嶌峰氏は、レアアースを巡る国際的な供給構造について説明した。

近年、採掘において米国、豪州、ミャンマーなど中国以外の国でも生産拡大が進んでいるものの、2025年時点でも中国の生産シェアは約7割を占めており、依然として圧倒的な存在感を維持しているという。また、2040年には中国の生産シェアが5割程度まで低下する見通しもあるが、それでも最大の供給国である構図は変わらないとの見方を示した。

さらに重要なのは、「採掘」よりも「精製」であると指摘した。レアアースの分離・精製分野では、中国が現在9割超のシェアを占めており、2040年時点でも採掘、精錬ともに高い支配力を維持すると予測されている。特に重希土類については、中国依存がさらに大きく、軍事・先端産業用途で重要なジスプロシウムやテルビウムなどの供給網は極めて脆弱であると説明した。

これら重希土類は、F35戦闘機、ミサイル等の軍事技術に加え、レーザー、ドローン、高耐熱磁石など軍民両用技術にも利用されており、供給制約が安全保障へ直接影響し得る点が大きな特徴であるという。また、中国以外の主要鉱山では軽希土類中心の産出が多く、重希土類の安定供給源は限られている現状も紹介した。

三、中国による輸出規制強化と各国の「脱中国依存」戦略

嶌峰氏は、中国政府が近年、レアアースを外交・安全保障上の交渉材料として活用する傾向を強めている点にも言及した。中国は2024年以降、軍民両用品の輸出管理制度を強化し、重希土類を中心とするレアアース関連品目を規制対象に組み込んでいる。2025年には輸出許可制を導入し、さらに中国技術や中国原料を使用した海外製品まで管理対象を拡大する余地を設けるなどなど、サプライチェーン全体に影響を及ぼし得る体制を整えつつあるという。

また、日本向けの軍民両用品輸出規制強化については、日本企業20社を輸出禁止・厳格審査対象とした措置を紹介し、単なる貿易問題ではなく、安全保障や外交戦略と密接に結びついた動きであると分析した。

こうした状況を受け、各国では対中依存度引き下げに向けた政策が急速に進展している。嶌峰氏によれば、米国は国防総省を中心にレアアース鉱山・分離・磁石製造への大規模投資を進めているほか、日本、豪州、EUなどと連携し、非中国圏でのサプライチェーン構築を推進している。

日本では経済安全保障推進法に基づき、レアアースを含む重要鉱物を「特定重要物資」に指定し、JOGMECによる備蓄や海外鉱山支援を拡充している。豪州やベトナム、ミャンマーなどとの協力も進められており、中国依存度を引き下げることが国家的課題となっているという。また、いわゆる都市鉱山を活用するため、使用済み電子機器からレアアース磁石を回収するリサイクル政策の重要性についても説明した。

EUも「Critical Raw Materials Act」に基づき、域内調達やリサイクル比率の数値目標を設定しているほか、韓国も資源備蓄や輸入先多角化を推進しており、「脱中国依存」は主要国共通の戦略課題となっていると説明した。

四、日本への影響と南鳥島レアアース開発

最後に、嶌峰氏は、中国による輸出規制の影響は既に日本国内にも現れていると指摘した。日本の輸入統計では、セリウム以外の希土類化合物について、中国からの輸入シェアが急低下しており、供給制約の影響が顕在化し始めているという。

その上で、レアアースはEV、風力発電、半導体、航空宇宙、防衛産業など幅広い分野で不可欠であり、供給不安は日本の産業競争力や経済安全保障に直結する問題であると強調した。

最後に嶌峰氏は、日本近海の南鳥島沖に存在する深海レアアース泥について説明した。南鳥島沖では世界有数のレアアース資源が確認されており、2010年の中国による対日輸出規制以降、開発が本格化してきたという。

同海域では、通常の泥による希釈が少ないこと、深海循環によりレアアースが長期にわたり供給されていること、レアアースを非常に吸着しやすい生物由来リン酸塩が豊富なことから、レアアースが高濃度で集積しやすい特殊環境が形成されている。また、深海では重希土類が溶存・集積しやすい特徴もあり、重希土類の含有率も高いという。2011年には東京大学の研究グループが高濃度レアアース泥の存在を発表し、その後、本格探査や追加掘削調査が進められてきた。2026年には試掘が成功したところであり、日本独自の供給源として期待が高まっている。もっとも、現時点では採掘コストが高く、特に深海からの揚泥や分離・精製コストが大きな課題となっている。

嶌峰氏は、レアアース問題は単なる資源確保の問題ではなく、産業政策、経済安全保障、先端技術競争が交差する国家戦略上の課題であり、日本としては供給源多角化、精製技術強化、リサイクル推進などを総合的に進める必要があると指摘した。この際日本は、中国と同じ土俵に乗った大量・低コストのレアアースの生産を目指すのではなく、レアアース利用においては、高機能・高付加価値型の技術優位を、また、レアアースの生産においては高選択分離技術や低環境負荷型プロセスの確立を目指すのが重要との見解を示した。

(文:JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田 侑奈)


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