2022年03月07日 青木 一彦(JST インドリエゾンオフィサー)
参考:科学出版物数で世界トップ3入り、女性科学者の制度拡充...インド科学技術庁、2021年レビュー(上)
インド科学技術省は、傘下の科学技術庁(DST)が2021年に取り組んだ施策のレビューを発表した。2021年12月28付。
レビューは21項目にわたってDSTの成功事例(Major Success Stories of DST During 2021)を紹介。今回の12~17の項目では、低炭素で手頃な価格の冷暖房のシステムについて欧州との協業、自閉症スペクトラム障害やアルツハイマー病治療薬の開発、織工の負担を軽減など草の根のイノベーションの支援を実施したこと等が報告された。
主な内容は以下の通り。
12.CO2排出量削減技術で持続可能性への飛躍
二酸化炭素(CO2)排出量削減技術による持続可能性への飛躍を目指し、EV、代替エネルギー、クリーンエネルギーの分野でイノベーションを推進した。
- Mission Innovation 2.0の一環として、インドは、欧州連合(EU)および英国とともに、低炭素で手頃な価格の建物の冷暖房についてイノベーションコミュニティを共同で主導し、カナダ、オーストラリア、フィンランド、モロッコ、オランダ、スウェーデン、サウジアラビアからの反響があった。
- EU-インドのクリーンエネルギーおよび気候パートナーシップの下でインド政府とEUは、大量の再生可能エネルギーを地域のエネルギーシステムに統合することを目的とした共同研究プロジェクトの提案を募集した。
- DSTからの助成金により、Horizon 2020プログラムの下でヨーロッパ諸国によって900万ユーロがコミットされた。また、DSTは、CCUSのパートナー国と協力してACT#3公募に参加し、TRLレベルを上げる技術移転の研究拠点として多国間CCUSコンソーシアムが、オランダ、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、英国、米国の協力によりIITカラグプル校、IITボンベイ校に設置された。
- 独自に開発された大規模な原子炉は太陽光や水などの持続可能な資源を使用して多量の水素を生成する。また、電気自動車で使用するリチウムイオン電池用のリチウム金属酸化物電極に炭素をコーティングする安価な方法を開発した。これにより電池の寿命は2倍になる。
- 蒸気として浪費される電力を節約してインド炭をメタノールに変換する技術を開発した。
- JNCASR (Jawaharlal Nehru Centre for Advanced Scientific Research)の研究者は廃熱を効率的に変換して小型の家庭用機器や自動車に電力を供給することができる、鉛を含まない新しい材料を発見した。
13.全ての人の健康と福祉への支援
- 研究者らは、自閉症スペクトラム障害(ASD)を治療するための「6BIO」と呼ばれる化合物を開発した。また、アルツハイマー病で機能不全になるメカニズムを破壊し、薬剤候補となる可能性のある分子がJNCASRの科学者によって開発された。
- DNAを測定する新しい技術が開発され、病気の早期診断に役立つことが期待される。また、人体の健康と生理学的状態を監視するために汗を追跡する低コストのセンサーを開発した。
- 将来の治療法のために血液、生検、臨床データを収集する国内初の国立心不全バイオバンク(NHFB)がSree Chitra Tirunal Institute for Medical Sciences and Technology(SCTIMST)に設立された。
14.草の根のイノベーション
DSTはNational Innovation Foundation(NIF)とともに、伝統的な玩具の製造方法や絹の織り方に革命をもたらし、何千人もの織工の負担を軽減した。乳牛の感染症である乳腺炎を治療するための費用効果の高い薬の開発などいくつかの草の根のイノベーションを支援した。
15.州レベルの脆弱性、健康、その他の気候変動の影響を評価
- DSTが支援する全国気候脆弱性評価報告書は、ジャールカンド、ミゾラム、オリッサ、チャッティースガル、アッサム、ビハール、アルナーチャルプラデーシュ、西ベンガルの各州を気候変動に対して非常に脆弱な州として特定した。研究者は、気候変数が子供の感染症の全症例の9〜18%を占めていることを発見した。
- 別の研究では、バイオマス燃焼、二次硫酸塩、北西インドとパキスタンからの二次硝酸塩、デリー、タール砂漠、アラビア海地域などの汚染された都市からの海洋混合エアロゾルが中央ヒマラヤのエアロゾルの主な発生源であることを突き止めた。
- インドの北西部、中部、中南部の地域は、過去半世紀にわたる激しい熱波のホットスポットであることが分かり、3つの熱波ホットスポット地域に焦点を当てた効果的な熱行動計画を策定する必要性が浮き彫りになった。研究者はまた、エアロゾル、ほこり、雲が太陽光発電や屋上太陽光発電設備からの太陽エネルギー生成を減らすことの経済的影響を計算した。
16.より良い災害管理
Wadia Institute of Himalayan Geology(WIHG)の研究者は、アッサム州とアルナーチャルプラデーシュ州の国境にあるヒメバスティ村で1697年に町のほとんどを破壊した地震の最初の地質学的証拠を発見した。この発見はヒマラヤ東部の地震ハザードマップに貢献する可能性がある。また、インドの北東端にあるミシュミ山脈では、ヒマラヤでこれまでに記録された最大の地震の痕跡をアルナーチャルプラデーシュ州のカムランナガル町で発見した。
17.全ての人が清潔で飲用に適した水にアクセスする支援
- ガンジス川下流域の水質は憂慮すべきものであることが判明したため、市営水道公社は330の伝統的な給水源(井戸水)を活性化させた。
- 繊維産業からの工業用染料廃水を再利用できる廃水処理ソリューションが開発され、毒性が排除され、家庭および工業用途に適したものとなった。大幅に改善された高度酸化プロセス(AOP)技術が、10キロリットル/日の速度で家庭用および工業用の工業用染料廃水の完全な再利用に利用されている。
- UV光触媒を使用した新技術により都市下水や高度に汚染された工業廃水を処理することが可能となった。また、海水淡水化システムについて、新興技術と未来技術のテストベッドとパイロット規模のデモンストレーションに関する水技術イニシアチブ(WTI)の下での提案募集では持続可能な技術の研究について300以上の提案があった。
- インドとオランダの水に関する協力のロードマップを作成するためにDSTによってインド・オランダ水円卓会議が組織された。