2023年7月26日
小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUT
オフィス コーディネーター
<略歴>
明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。インドでは、チェンナイ補習授業校、人材コンサルティング会社、会計事務所に勤務後、現在は、長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、インド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の日本語教育に携わっている。IITマドラス校の職員住宅に居住している。
インド教育省による国内大学ランキング (National Institutional Ranking Framework:NIRF) 2023[1]が6月5日、発表された。NIRFは、インド政府が独自に国内大学の評価を分野別に行うもので、2016年に開始され、今年で8年目である。
NIRFでは、以下8つの分野でランキングが発表されている。
評価基準は、大きく分けると、
-の5点で、評価が算出される。
IITマドラス校は、NIRFが開始された2016年以降、工学部門において、8年連続で不動の1位を獲得している。また、総合評価においても、過去5年間連続で1位を獲得してきた。この高評価の理由を探るため、今回は同校の施設を中心に紹介する。
IITマドラス校は1959年、インドにおける工学系高等教育機関の設置のため、当時の西ドイツ政府の援助を受け創設された国立大学である。IITマドラス校のメインキャンパス[2]は、国立自然公園内に建設され、動植物が自然に生息している緑豊かで広大なキャンパスである。学生数は現在1万人を越え、学部生より大学院生のほうが多い。教員は700名ほど。学生・教員とも毎年増加傾向にある。
IITマドラス校正門
ニュー・アカデミック・ビルディング前庭
筆者宅から学部棟や学生寮を望む
(いずれも筆者撮影)
1961年以降、「国家の重要機関/Institutions of National Importance(INI)」[3]の1つに認定され、インド政府から、高い自治権と資金の提供を保証されている。2019年には、「卓越大学/Institute of Eminence(IoE)」[4]にも認定され、世界クラスの教育研究機関となるべく、さらなる自治権と資金援助が提供された。
このような背景の中、特に近年は、大学の拡大と開発がめざましい勢いで進められている。筆者自身、IITマドラス校のキャンパスに居住してから早くも20年目となり、この間、大学の多くの成長を目にし、肌で感じてきた。印象的だった変化の1つとして、以前、このポータルの「IT大国・インドはどのように学んでいるのか― ⑤ IITマドラス校が学外に繰り広げるオンライン教育プログラム」[5]で、広く学外に向けた教育普及活動を挙げた。
NPTEL生涯学習教育は、インドを代表する工学、理学系大学8校が共同で提供している。
IITマドラス校は、その管理拠点
(資料提供: IITマドラス校)
その他、IITマドラス校には多くの研究施設があり、ここではその中から3例を挙げる。
2008年設立。コンセプトは「学生が自分のアイデアを実現するための、学生のためのプラットフォーム」。メインキャンパス内にあり 、充実したワークスペースと設備、教員や上級生からの豊富な指導、チームの熱意により、IIT マドラスの学生は、恵まれた環境で、様々な工学系のクラブ活動に励んでおり、国際的コンペティションに参加するチームも多い。「アイデアを持って入り、成果物を持って出る」 をモットーとしている。
新設のビルに移転したセンター・フォー・イノベーション
(筆者撮影)
2010年、キャンパスに隣接する広大な敷地に建設された、インドで初の大学拠点の「産学連携目的のリサーチパーク」。産学間の共同研究を促進し、技術革新を可能にし、起業家精神を育成することを目的とする。研究に重点を置く企業がパーク内に拠点を構え、IITマドラスで得られる専門知識を活用できるよう支援するものである。日系企業も数社入居している。また、「IITマドラス校の卒業生・同窓生に対しても、スタートアップの機会を提供するインキュベーション・セル」も含む。
IITMリサーチパーク
(筆者撮影)
前述のIITMリサーチパークは、主に産学連携とスタートアップを目的とし、企業の研究部門の入居が中心となっている。一方で、IITマドラス校独自の、「教員と学生、研究生のための、純粋な学術研究施設」として、マドラス校キャンパスから30㎞ほど離れた近郊に、2021年、ディスカバリー・キャンパス[8]が落成された。インドでは、計画した全ての建物の建設が終わってから落成、設立とするのではなく、建物の第1号が完成するなど、早い時点が設立年となるため、以降、順次各研究施設の建設が進められている。新設のため、大規模な設備を要する施設にも対応可能だ。
ディスカバリー・キャンパス(2021年時点の設計図から)
(IITマドラス校提供)
次回以降、高い評価の根拠となる活動や、各拠点での興味深い研究活動などを紹介する予定。