【AsianScientist】 バクテリアを使って宇宙でレンガを修復する

土壌細菌であるSporosarcina pasteuriiから生成される炭酸カルシウムとグアーガムの混合物は、月面で壊れたレンガを修復する鍵となるかもしれない。(2025年6月5日公開)

月探査は単なるフライバイ(近接通過)ではなくなってきた。過去の月探査ミッションは、チャンドラヤーン1号が水の存在を確認するなど、月の環境に関する情報をもたらしてきた。現在、研究者たちは、月面に恒久的な居住地を建設しようとするNASAのアルテミス計画など、期間の長いミッションに関心を寄せている。

地球から建築資材を輸送するのに必要な資源を削減するには、宇宙飛行士は月面に既に豊富に存在するもの、つまり月の土壌を利用しなければならない。

インド理科大学院 (IISc) の研究者たちは、以前から月や火星の模擬土壌から宇宙用レンガを製造するために、バクテリアを使う技術を開発してきた。そして今、彼らは過酷な月の環境で破損したレンガを修復する方法を開発した。

土壌細菌であるSporosarcina pasteuriiは、尿素とカルシウムの存在下で炭酸カルシウムを生成する。バクテリアが生成する炭酸カルシウムは、グアーガムと結合することで月の土壌粒子に付着し、レンガを作る。

このようにして生成されたレンガは、焼結、つまり極めて高温で加熱することで強度を高めることができる。本研究の責任著者でもあるIISc機械工学科 (ME) のアローク・クマール (Aloke Kumar) 准教授は「これはレンガ製造の古典的な方法の一つです」と説明する。「この方法で作られるレンガは非常に強度が高く、一般的な住宅にも十分すぎるほどです」

焼結レンガは強度が高いかもしれないが、月面で使用されるならば地球よりもはるかに過酷な環境に耐える必要がある。月面には大気がないため、気温は121℃から-133℃まで急激かつ大きく変化する。本研究論文の共著者でもあるMEのコウシック・ヴィスワナサン (Koushik Viswanathan) 准教授は「月面では気温の変化がはるかに大きいので、長期的に見ると、建築材料は大きな負担を受けることでしょう」と語る。さらに隕石のおそれもあるため、レンガが破損する可能性は大きい。 「焼結レンガは脆いのです。ひびが入り、それが拡大すると、構造物全体があっという間に崩壊してしまう可能性があります」とヴィスワナサン准教授は付け加えた。

研究者たちはこの問題を解決しようと、再びバクテリアに着目した。焼結レンガに様々な欠陥を誘発させた後、S. pasteurii、グアーガム、月面模擬土壌、乳酸カルシウムからなる懸濁液を注入した。時間の経過とともに、バクテリアは炭酸カルシウムを生成し、レンガの空洞を埋めた。それと同時にグアーガムはレンガの結合力を高めた。

クマール准教授は「当初、バクテリアが焼結レンガに付着するかどうかは確信が持てませんでした。しかし、バクテリアは懸濁液を固めるだけでなく、レンガにもしっかりと付着することがわかりました」と語る。このプロセスによってレンガの強度はほぼ回復し、月面の構造物の寿命を延ばす可能性を示した。

この方法は、宇宙での使用の他に、地球上でも、セメントに代わる持続可能で費用対効果の高い方法として利用できるかもしれない。

「大きな疑問の一つは、地球外環境におけるバクテリアの挙動です」とクマール准教授は語る。「バクテリアの性質は変化するのでしょうか?炭酸塩の生成を止めるのでしょうか?これらのことはまだ分かっていません」

研究チームは、ガガンヤーン・ミッションでS. pasteuriiのサンプルを送り、微小重力下での挙動を調べたいと考えている。「もしそれが実現すれば、私たちの知る限り、この種のバクテリアを用いた初めての実験となります」とヴィスワナサン准教授は述べた。

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