【AsianScientist】 葉から滑り落ちないリキッドマーブル、環境に優しい農薬開発へ

リキッドマーブルは有望な解決策だが、現場での適用には依然として多くの課題が残っている。(2026年2月12日)

葉には水をはじき、真菌や細菌の攻撃から身を守るコーティングが備わっている。しかし、農家にとってはこの天然のコーティングが障壁となっている。作物や植物を害虫から守るために農薬を散布しても、その半分は葉から流れ落ちてしまう。

ルトヴィク・ラシア (Rutvik Lathia) 氏はベンガルールに所在するインド理科大学院 (IISc) ナノ科学工学センターの博士課程在学中、リキッドマーブルについて研究していた。リキッドマーブルとは撥水性粒子の層に包まれた液滴のことである。指導教官のプロセンジット・セン (Prosenjit Sen) 氏の研究室で、彼は考えたこともないことに気がついた。リキッドマーブルは、裸の水滴よりも撥水性の表面にうまく付着することができる。この事実を基に、研究チームはJournal of Colloid and Interface Science誌に発表した論文で、リキッドマーブルを農薬として利用する提案を行った。

現在、マインツ(ドイツ)のマックス・プランク高分子研究所でポスドク研究員を務めるラシア氏は、Asian Scientist Magazine誌に対し、メールで「これは考えもしなかったことですし、興味深いことです」と話してくれた。「以前の研究の一つでは、チームはリキッドマーブルが」水をはじく物質の表面で「水滴よりも素早く跳ねるのを観察しました」

現在、農薬業界は様々な方法でロールオフ問題(農薬の液滴が葉の表面に付着せず転がり落ちてしまう現象)に取り組んでいる。一つの解決策は、ポリマーやオイルを使って農薬の粘着性を高めることであるが、これは環境に有害である。別の解決策は特殊な液体を使い農薬を葉に付着させることであるが、このような液体には「界面活性剤」が含まれており、特にミツバチに有害である。IIScグループによると、リキッドマーブルは生分解性を持つ一つの手段であり、同時に撥水性を持つ表面にはるかに効率的に付着する。

不思議なことに、水滴とリキッドマーブルの違いはごくわずかなものである。つまり、ガラスのような約35ミクロンという撥水性物質の層が両者を違うものにしている。しかし、この薄いガラス層が大きな違いを生み出していると考えられる。水滴は撥水性表面で広がるが、急激に反跳し、約5%だけが付着する。

しかし、普通の水滴とリキッドマーブルの性質の違いを生み出しているのは撥水性を持つガラス粒子そのものである。リキッドマーブルの場合、95%以上が吸収される。

本質的には、その違いは反跳がないことに尽きる。ラシア氏の説明によると、リキッドマーブルは衝突時に内部構造に変化が起こり、ガラス粒子同士が衝突し、エネルギーの50%が失われるため、反跳が見られない。これは水滴とは異なる動きである。衝突によって摩擦が増加するわけだが、つまり、道路を塞ぐ車が交通渋滞を引き起こすようなものである。

しかし、研究者が実験室でリキッドマーブルを製造するために一般的に使用するガラス粒子やテフロンも植物に有害である。そこでIIScチームは、リコポジウムやゼイン(トウモロコシに含まれるタンパク質)といった、生分解性と有機性を持つ他の粒子を探した。そして、これらの物質で作られたリキッドマーブルは、ガラス粒子をコーティングしたものよりも効率的であることが分かった。

とはいえ、生分解性リキッドマーブルを農薬に応用させるのは容易なことではなかった。

「最大の課題は生産拡大です」とラシア氏は語る。従来の噴霧式農薬と同等のコストでリキッドマーブルを大量生産することは、まだ現実的ではない。さらに、標準的な液滴噴霧方式と同等の効率でリキッドマーブルを生成できる噴霧機構は今のところ存在しない。

最大のボトルネックは、科学そのものを理解することにあるようだ。「粒子コーティングが葉の農薬吸収に与える影響について、まだ研究する必要があります」とラシア氏は述べた。

それだけではない。ラシア氏によると、研究者たちは「粒子の長期保持が光合成やガス交換といった植物の機能に影響を与えるかどうか」も解明する必要がある。

研究チームはいくつものハードルを克服しようとしている。1つは製造に関するもので、サイズとコーティングを制御しつつリキッドマーブルを大量に製造できる連続生産装置の開発を計画している。

さらに、チームは噴霧中に直接リキッドマーブルを形成できるノズル設計を試してみようとも考えている。 「私たちは、持続可能性の高い粒子コーティングの特定も目指しています。付着後に急速に溶解する物質、あるいはコーティング自体が殺虫作用を持つるコーティングといったものです」とラシア氏は述べた。

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