2025年度LOTUS プログラムに迫る パート2: プラジット・シンハ氏(神戸大学)

科学技術振興機構(JST)のさくらサイエンスプログラムが支援するLOTUSプログラムは、日印両国の研究機関間の協力を促進し、ネットワークを構築することで、日印共同研究の強化を目的としている。この「LOTUSプログラムに迫る」という記事では、インド工科大学ボンベイ校の研究員であるプラジット・シンハ(Prajit Singha)氏にインタビューを行った。シンハ氏は、本プログラムへの参加の一環として、神戸大学で研究を行っている。

プラジット・シンハ(Prajit Singha)氏(LOTUS被招へい研究員)
インド工科大学ボンベイ校(IIT Bombay)研究員

Q1. ご自身の経歴についてお聞かせください

A1. 分光法を用いて「見えないものを見る」研究をしています

私はインドのハイデラバード大学で修士号を取得しました。そこで、主に溶媒を用いて研究していた超高速ダイナミクス分野に携わるようになりました。

その後、インド工科大学ボンベイ校で博士号を取得し、主に分光法を用いた研究を行いました。分光法を選んだのは、化学者は「盲目」であるという根本的な考えからでした。化学者は反応中に実際に何が起きているのかを見ることができません。例えば物理学では、物体が機械的に動いているのを直接観察できますが、化学者はこれを行うために道具を使わなければなりません。分光法はそうした道具の一つですが、それが超高速になると、さらに素晴らしいものになります!現象が非常に速く起こるため、反応中に何が起きているかを実際に追跡できるのです。超高速ダイナミクスに加え、単一分子分光法にも取り組んできました。これらを通じて、スペクトル分解能と時間分解能の両方を用いて物事を観察することができました。

日本に来てからは、ナノ結晶内部でのキャリアの移動についてより深く学ぶことができました。実は、修士課程の頃からペロブスカイトやナノ結晶に興味を持ち始めていたのですが、博士課程でそれらを研究する機会を得たのです。これが、私の研究が富永教授の研究室と結びついている点です。設備が本当に充実しています!必要な機器はすべて揃っており、富永先生からも多くの助言をいただいています。自分なりのアイデアがあり、素晴らしい指導者がいれば、物事は順調に進みます。私にとって、ここはまさに理想的な環境でした。

最初にここに来たのはフェローシップを通じてでした。その際、指導教官と話す機会があり、日本で実施されている興味深いプログラムについて教えていただきました。それは、日本で研究したいと願うインドの若手科学者を実際に支援するものです。これは研究を継続できる素晴らしいプラットフォームです。フェローシップとLOTUSの両方に大変感謝しています。

Q2. LOTUSプログラムではどのような研究を行っていますか

A2. ペロブスカイトナノ結晶とその内部のキャリアの解析

富永教授のグループは主にテラヘルツ領域での分光測定に注力しているため、私はいくつかの材料、具体的にはペロブスカイトナノ結晶を合成し、ここにある装置や技術を用いてその中のキャリアを追跡しています。そのために超高速テラヘルツ分光法を使用しています。実は、日本での最初のフェローシップ期間中にこの研究を開始し、LOTUSプログラムを通じて神戸大学で研究を継続することができました。

また、昨年7月には東京で興味深いプログラムが開催されました。LOTUSが多くの被招へい研究員を集め、化学だけでなく様々な分野にわたる非常に有意義な学びの場となりました。物理学や水技術、さらには地理学などの分野で研究を行う多くのインド人研究者が一堂に会し、発表やアイデアを共有しました。

研究室で使用する様々な機器について説明するプラジット氏

Q3. 日本と比較したインドでの経験について詳しく教えてください

A3. 日本の利便性と高度な機器について

私は昨年8月に日本で活動を始め、2月に博士号を取得し、3月にLOTUSプログラムに参加するために戻ってきました。日本はとても便利な場所です。インドにいた時の指導教官は、私が来る前に「世界中のどこも不便だが、その中でも日本は最も便利だ」と教えてくれました。 もちろん、事務手続きなどに関しては、日本語が難しいこともあり、自分一人ではすべてをこなすことはできず、対応に苦労することもありますが、大きな問題ではないと思います。こうした業務を手伝ってくれる事務のスタッフもいます。言語の壁が、時として物事を難しくすることもあります。

日本は働くにはとても良い場所です。一つ言えるのは、ここに来る際には、何かしらのアイデアや考えを持ってくるべきだということです。自分の研究を特定の方向へ進めるのに役立つようなものです。研究には常に失敗がつきものです。ある方向に進んでうまくいかなければ、別の方向へ進むべきです。ここで研究をする際に計画を持ってくれば、成功するチャンスがあると思います。

インドについては、ご存知の通り我々は発展途上国です。日本では、特に超高速分光の研究室では、幅広い機器や選択肢が利用可能です。インドではリソースに問題があり、材料を注文しなければならないような場合でも、手元にあるもので、なんとかやりくりしなければなりません。これが両国を比較した際に最も際立つ点です。

第二に、インドでは計測器のほとんどがブラックボックス化されており、多くの研究者はその内部で何が起きているのか実際には把握できていません。そのため、問題が発生したり微調整が必要になったりしても、自分たちでは対応できず、困難を極めます。この研究室では、太田さんと富永教授が独自の計測器を製作してくださっていたため、私は非常に恵まれていました。これは極めて重要なことだと感じています。装置を製作することと、そこから結果を得ることは全く別物です。装置の製作には多大な労力と特殊な技術が求められます。単にデータを収集するだけでなく、装置の製作方法、問題が発生した際の対処法、そして研究の様々な側面をどのように制御するかといった点も重要です。また、ここでの滞在中にデータ処理についても多くを学びました。

インドの研究環境について言えば、インドには多くの研究者がおり、人的資源という強みがあります。修士課程までの基礎教育は充実しており、科学教育のカリキュラムも非常に充実しています。博士課程に進むと皆非常に熱心に研究に取り組み、インドの科学コミュニティは拡大を続けており、日々科学の発展に貢献しています。 著名な国際学術誌には、主に合成や無機化学などの分野において、非常に優れた研究成果が発表されています。物理化学の分野ではまだ成長の余地がありますが、有機化学と無機化学の分野においては、我々が世界トップクラスであると言えるでしょう。

Q4. 将来のLOTUS奨学生へのメッセージ

A4. 研究目標の達成を後押しする良好なパートナーシップ

LOTUSプログラムは、私の研究に大いに役立っています。私は昨年3月に初めてここに来て、海外で生活していくうえで欠かせない生活費をその期間分受け取りました。また、このプログラムでは一度に9~10ヶ月間の滞在が可能で、海外での研究ポストとしてはかなり長期にわたり、非常に魅力的です。 まず、数ヶ月間かけて研究テーマについてじっくり考える時間が持てました。これは以前の奨学金で既に着手していた研究でしたが、LOTUSへの招待を受けてから、ここにある実験室の機器の使い方を学び、研究をさらに進めることができました。

私は間違いなく、他のインド人研究者にもLOTUSプログラムへの参加を勧めます!キャリアの展望という点では、外部機関のポスドク職に応募する人々を多く見てきましたが、中には優れた資格を持っているにもかかわらず、国際共同論文がない人がおり、それがキャリアの展望を狭めているのです。このプログラムは、まさにその課題を解決するのに役立つと思います。また、ここでの経験は科学だけでなく、生き方についても多くを学ばせてくれたので、もしうまくいけば、ぜひまた日本に戻ってきたいと思っています。

また、富永先生にも感謝したいと思います。先生は素晴らしい方です。何か質問したい時や問題がある時はいつでも、喜んで助けてくれます。滞在中、先生はとても親しみやすく接してくれました。 科学的な議論だけでなく、富永先生と太田さんは、私の原稿の書き方について一緒に話し合い、その過程で助けてくださり、最終的に完成させることができました。これはクリケットでいうパートナーシップのようなもので、うまくいけばチームが勝つのです!ここでの時間は本当に楽しかったですし、先生は本当に素敵な方です!

プラジット・シンハ(Prajit Singha):
インド工科大学ボンベイ校(IIT Bombay)研究員

ハイデラバード大学(化学専攻)で理学修士号を取得後、IITボンベイに移り、超高速分光法および顕微鏡法の博士号取得を目指す。課程修了後、IITボンベイの研究員に就任。

2025年度 LOTUS被招へい研究員


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