2021年09月
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インドで世界初の新型コロナ DNAワクチン開発、緊急使用許可発行

インド医薬品規制庁(DCGI)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のDNAベース・ワクチンである「ザイコブD(ZyCoV-D)」の緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を発行した。これは純インド国産であり世界で初めて開発されたDNAワクチンとなり、12歳以上の接種が認められた。インド政府が8月21日発表した。

ザイコブDはインドの製薬メーカー、ザイダス・カディラ(Zydus Cadila)社が、同国科学技術省バイオテクノロジー庁(DBT)(下記、注1)とのパートナーシップを結び、BIRAC(バイオテクノロジー産業研究支援協議会)(注2)が実施するMission COVID Suraksha (MCS) (注3)の下で開発された。MCSはDBTが主導するCOVID-19ワクチン開発の政策(ミッション)で、「Suraksha」は防衛、保護の意。

ザイコブDの前臨床試験、臨床試験の第1・2相はNational Biopharma Mission(NBM)(注4)のCOVID-19研究コンソーシアムにおいて、臨床試験の第3相はMCSの支援を受けて実施。ザイコブDは、28,000人以上の参加者を対象とした第3相臨床試験の中間結果で、RT-PCR陽性の症状のある症例に対して66.6%の一次効果が認められた。このワクチンは、これまでに実施された適応型の臨床試験第1・2相において、強固な免疫原性と忍容性および安全性プロファイルを示した。なお、第1・2相および第3相の臨床試験は、いずれも独立したデータ安全性監視委員会(DSMB)によって監視される。

ザイコブDは3回接種のワクチンで、免疫反応を誘発し病気からの保護やウイルスの除去に重要な役割を果たす。このプラグ・アンド・プレイ技術を基盤としたプラスミド(Plasmid)(注5)DNAプラットフォームは、すでに発生しているウイルス変異にも容易に対応できる。

この成功においては、

  • ザイダス・グループのワクチン研究センターであるワクチン・テクノロジー・センター(VTC)
  • DBT傘下の自治機関であるトランスレーショナル・ヘルス・サイエンス・アンド・テクノロジー・インスティチュート(THSTI)
  • インタラクティブ・リサーチ・スクール・フォー・ヘルス・アフェアーズ(IRSHA、プネ市)
  • DBTの国家バイオファーマ・ミッション(NBM)の下で設立されたGCLPラボ

―という各組織が重要な役割を果たした。

DBT長官兼BIRAC議長のレヌ・スワラップ(Renu Swarup)博士は「MCSの支援を受けて、DBTと共同で開発したザイダス社の世界初のDNA COVID-19ワクチンのEUAが承認されたことを大変誇りに思う」と表明。そのうえで、「インドのワクチン開発のミッションMCSは、BIRACが実施しているAtma Nirbhar Bharat(ANB:自立したインド政策)パッケージ3.0の下で開始され、公衆衛生のための安全で効果的なCOVID-19ワクチン開発を目的としている。このワクチンは、インドと世界にとって重要なものになると確信している。これは、国産ワクチン開発ミッションおよび、インドの新規ワクチン開発能力を世界で位置づけるための重要なマイルストーンである」と強調した。

また、ザイダス・グループのパンカジ・R・パテル(Pankaj R. Patel)会長は「COVID-19に対抗するために、安全で忍容性が高く効果的なワクチンを提供するという我々の努力が、ザイコブDによって現実となりうれしく思う。このような重要な時期に、あらゆる困難にもかかわらず、世界初のDNAワクチンが開発でき、インド研究者たちの革新の精神に敬意を表したい。このANBと、ワクチン開発ミッションのMCSを支援したDBTに感謝する」と表明した。

(注1)DBT:
科学技術省傘下のバイオテクノロジー庁(DBT)は、農業、医療、動物科学、環境、産業におけるバイオテクノロジーの開発と実施を通じて、インドにおけるバイオテクノロジーの開発を促進、改善している。

(注2)BIRAC(Biotechnology Industry Research Assistance Council):
BIRACは、DBTによって設立された非営利の公共部門企業で、発展途上のバイオテクノロジー産業が、国家の製品開発ニーズに関する戦略的な研究開発活動の実施を強化・奨励するためのインターフェース機関。

(注3)Mission COVID Suraksha (MCS):
DBTが主導するCOVID-19ワクチン開発の政策(ミッション)。「Suraksha」は防衛、保護の意味。この政策は、インドのCOVID-19ワクチンの研究開発を促進するための3番目の刺激策であるANB 3.0の一部として発表された。この政策は、DBT傘下の公共部門事業体(PSU)であるBIRACによって、12カ月かけて総予算90億ルピーで実施されており、国民に安全、効果的、手かつ安価でアクセス可能なCOVID-19ワクチンを提供するもの。

(注4)National Biopharma Mission(NBM):
バイオ医薬品の早期開発を加速するためのバイオテクノロジー部門(DBT)の産学共同ミッションで、BIRACによって実施される。NBMは、2017年5月に内閣によって承認され、総費用は2億5,000万米ドルで、世界銀行が50%共同出資している。

(注5)プラスミド(plasmid):
細胞内で複製され、娘細胞に分配される染色体以外のDNA分子の総称。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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