インド理科大学院(IISc)は3月9日 、ウダイ・マイトラ(Uday Maitra)教授率いる研究チームが微量の過酸化水素(hydrogen peroxide:H2O2)も検出できる紙製のセンサーを開発したことを発表した。研究成果は科学誌 ACS Sensors に掲載された。
マイトラ教授の研究室では、特定の化学物質や化合物の存在下でランタノイドと呼ばれる元素の発光をオンにする「増感剤」分子を開発する研究を行ってきた。今回設計した増感剤分子は、テルビウムという金属を紫外線ランプで照射すると緑色に発光させることができる。この増感剤をマスキング剤と組み合わせると、緑色の光は消えてしまうが、この組み合わせに過酸化水素を加えると、増感剤のマスキングが解除され、再び緑色に輝くようになる。この分子を含む溶液からゲルを調製し、直径約0.45cmの薄い紙の円盤の上で風乾させるという技術を使い、過酸化水素も検出できる紙製のセンサーを開発した。
この紙ディスクを紫外線ランプの下に置くと、過酸化水素が存在するときだけ緑色に発光し、その強度は濃度に正比例する。この発光は、実際に肉眼で確認することができ、高度な装置も難しいトレーニングも必要ない。また、この紙製ディスクは、低コストで生分解性があり、資源が限られた環境でも、血液などの検査に役立つ可能性がある。
さらに、過酸化水素は、生体や細胞だけでなく、家庭用品、ヘルスケア製品、ロケット燃料の推進剤や爆発物の出発物質などに広く使用されているため、この効率的検出技術の開発は様々な分野にとって重要である。
マイトラ教授は「過酸化水素は、滴定などの実験でより大規模な検出が可能だが、それらの手法は面倒でトレーニングも必要とされる。このディスクによる手法は、シンプルなので簡単である」とこの新しい手法の利点を述べた。
現在、研究チームは、過酸化水素の濃度が低い場合の反応時間の短縮に取り組んでいる。また、チェンナイのスタートアップ企業と協力し、より自動化された方法で検出できる小型の携帯機器の開発にも取り組んでいる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部