AsianScientist(2022年03月15日)-インドと米国の研究チームは、ニーム(Neem)の木の樹皮抽出物(Extract from the bark)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大抑制に役立つ可能性があることを報告した。
最近 Virology 誌に発表された研究は、ニームの木の樹皮から得た抽出物は、COVID-19を引き起こすウイルス(SARS-CoV-2)に対して、抗ウイルス効果があると示している。 インドと米国の研究チームは、この調査結果が重篤な疾病のリスクを下げ、COVID-19感染の拡大を抑えることができる新薬の開発に役立つと考えている。
ニームの木 (Azadirachta indica) は、インド原産のマホガニーであり、大きな葉を持つ。この木はさまざまな成分を持ち、特定のウイルス、バクテリア、寄生虫に対してさまざまな薬効があると報告されている。特に樹皮からの抽出物は、マラリア、胃潰瘍、腸潰瘍、皮膚障害に対して有効であることが研究試験で示されている。
インド科学教育研究大学(Indian Institute of Science Education and Research: IISER)コルカタ校と米国のコロラド大学(University of Colorado)の研究者らは、ニームの樹皮は伝統的治療薬として使われていることを踏まえ、ニーム抽出物がCOVID-19感染の抑制にも役立つかどうかを調べた。チームはさまざまな方法を組み合わせて、コロナウイルスに対する抽出物の効果を包括的に研究した。
チームがコンピューターを使いモデリングを行ったところ、ニーム樹皮抽出物が多くのウイルスタンパク質を標的にする可能性を持つことが分かった。
一部の成分は、ウイルスがヒト細胞に侵入するのを可能にするSARS-CoV-2スパイクタンパク質のさまざまな領域に結合することが可能である。ニーム成分が結合するとスパイクタンパク質は安定する。通常は宿主細胞と結合する重要な領域のブロックとして効果的に機能し、スパイクタンパク質と宿主細胞との結合を防ぐことができる。
ウイルスは宿主細胞に結合できなくなったため、複製に必要な宿主の遺伝機構に接近できない。ウイルスの複製は通常、ウイルスが体内の他の細胞や臓器に広がることを可能にさえするため、疾病の進行や重症度と相関している。したがって、この接近点を遮断することで、SARS-CoV-2が身体に深刻な損傷を与えるのを防ぐことができる。
チームが研究室内でSARS-CoV-2に感染したヒト肺細胞のサンプルに樹皮抽出物を加えたところ、その抽出物は、主にウイルスエンベロープをコードする遺伝子の発現を減少させ、細胞内のウイルス感染と複製を阻害することが分かった。エンベロープはウイルスの遺伝物質を保護し、ウイルスが細胞膜を通って細胞に侵入するのを可能にする重要な外被である。
マウスを使った実験では、抽出物は侵入を阻止し、ウイルス複製を減らすことにより、脳の炎症や肝炎など、COVID-19が引き起こす他の合併症も減少させた。
総合的に見ると、ニーム成分は感染を防ぎ、また、感染後の疾病の重症度を軽減できる抗ウイルス剤としての可能性を示した。さらに、チームは、抽出物には複数をターゲットにできるという性質、特にいくつかのスパイク領域に結合する能力があるため、スパイクタンパク質に変異を持つ新しい変異体に対して効果がある可能性を強調した。
チームの今後の目的は、抗ウイルス効果の元となるニーム樹皮の特定の成分を特定することである。それにより、ニームを使用した抗ウイルス治療を開発することができ、コロナウイルス感染症を治療するときの投与量を決定するのに役立つであろう。
チームは「ニーム樹皮抽出物の抗ウイルス特性から、ウイルスの拡散、複製、融合を制限する新たな仮定が引き出されました。我々の研究は、現在爆発しているCOVID-19パンデミックに対抗できる新しい抗ウイルス治療開発の指針となり、新しいコロナウイルス株が将来出現しても、治療できる可能性を秘めています」としている。