インド理科大学院(IISc)は1月10日、群れを作るウシ科の哺乳類の1種であるブラックバックが生存の危機に対して、どのように生き延びているかヒントを得たと発表した。今回の研究は、こうしたブラックバックの生存に関する最初の成果であり、その中にはブラックバックの遺伝子プロファイルの分析も含む。研究成果は学術誌 Conservation Genetics に掲載された。
ブラックバックはインド半島でのみ生息し、クラスター分析により、インド北部、南部、東部に生息する集団に分けられる。それぞれの集団と集団の間には、人間の人口密集地域が存在し、ある集団が生息する地域から別の集団が生息する地域への移動は簡単ではない。
論文の筆頭著者であり、研究当時、IISc生態科学センター(CES)の博士課程の学生であったアナンヤ・ジャナ(Ananya Jana)氏は、「それぞれの集団が遺伝的に縮小している可能性があり、研究では、近交弱勢(近親交配により生物学的適応度の低下)が進む危険性があるというアイデアを取り入れた」と説明する。
アナンヤ・ジャナ氏はCESの教員であるプラベーン・カラント(Praveen Karanth)教授と共同で、ブラックバックの糞便サンプルから遺伝子配列を調べ、遺伝子データと地理的位置を視覚化するための計算ツールを作成した。二人は、シミュレーションを利用して、現在ある3つの集団が共通の祖先からどのように進化したのか追跡した。その結果、ブラックバックの祖先は初めに、北部と南部の2つの集団に分かれたことが明らかになった。また、東部に生息する集団は、地理的には北部の集団に近いものの、南部に生息する集団から出現したと推測された。さらに、これらの遺伝子データから、近年ブラックバックの個体数は増加傾向にあることも示された。
今回の研究データに基づき、カラント教授は、「現在生息するブラックバックは、人間が支配する環境の中でなんとか生き延びているようだ」と話した。研究チームは今後、DNAと腸内細菌叢の変化の研究を通して、人間活動に由来する脅威の中で生き延びるブラックバックの生存の秘密を明らかにしたいと計画を立てている。こうした研究はブラックバックの保全に関して、より良い知見を与えると期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部