2023年10月
トップ  > インド科学技術ニュース> 2023年10月

転移性トリプルネガティブ乳がんにナノ療法の可能性 インド

インド科学教育研究大学(IISER)の研究者らは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞内に低分子2本鎖RNA(siRNA)分子をペプチドベースのナノ複合体で運ばせることで、特定の遺伝子を沈黙させ、がんの転移を阻止できることを研究している。科学誌nature indiaが8月22日に伝えた。研究成果は学術誌Chemical Scienceに掲載された。

TNBC細胞は乳がん細胞に一般的なレセプターを持たないため、乳がんのサブタイプの中で治療が困難なものとして知られている。IISERコルカタ校のリトゥパルナ・シンハ・ロイ(Rituparna Sinha Roy)氏らは、ペプチドベースのナノ複合体を合成し、それをビタミンEと脂質基で修飾した。この複合体に対してsiRNAを結合させ、TNBC細胞に浸透させた。TNBC細胞を1週間培養しその効果を調べたところ、今回用いたナノ複合体は市販のsiRNAキャリアよりも、TNBC細胞の制御不能な増殖に関わる3つの主要遺伝子を1.6倍の効率でサイレンシングした。また、転移に不可欠なステップであるがん細胞と内皮細胞をつなぐナノブリッジの形成も阻止していた。

IISERプネー校のアルナブ・ムカルジー(Arnab Mukherjee)教授らの研究グループは、TNBC細胞をゼブラフィッシュの幼生に注入し、ナノ複合体と抗糖尿病薬であるメトホルミンの併用療法を行った。併用療法では、ナノ複合体単独よりも効率的に転移を抑制することが分かった。ゼブラフィッシュはヒトと共通の遺伝子やタンパク質を多く持つことから、この併用療法がTNBCの治療に使える可能性が示唆されたと研究者らは話した。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る