2024年01月
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【AsianScientist】タタ・トランスフォーメーション賞、3氏が受賞

タタ・トランスフォーメーション賞は、食料安全保障、持続可能性、ヘルスケアの分野で見られる大きな社会的問題について、インドで革新的なソリューションを開発する研究者をたたえ、支援する。(2024年1月10日公開)

インドに本社を置く世界的企業であるタタ・サンズと、米国のニューヨーク科学アカデミーは、タタ・トランスフォーメーション賞の受賞者を発表した。この賞は、大きな社会的問題について、先見性を持ち革新的なソリューションを開発するインドの研究者をたたえ、支援するものである。著名な専門家からなる国際審査団は、食料安全保障、持続可能性、ヘルスケアの分野でのイノベーションを評価して、169名の候補者の中から3名の研究者を選出した。各受賞者には2,000万ルピー(約3,400万円)が贈られた。

2023 年タタ・トランスフォーメーション賞を受賞した研究者は以下の通り。

食料安全保障部門受賞者: シルピ・シャルマ(Shilpi Sharma) 教授

インド工科大学デリー校のシャルマ教授は、合成微生物群集を使用した土壌マイクロバイオーム技術の研究が評価され、選ばれた。この技術はマイクロバイオーム利用土壌変換 (BIOTRANSFORM) と呼ばれている。 農薬や合成肥料を使用する従来の農業とは異なり、有機的に改良された土壌は、作物の生産性を低下させるさまざまな植物病原体を抑制する自然の力を持つ。

シャルマ教授はその研究で、インドの6つの州における土壌の病原体自然抑制能力の地図を初めて作り、この能力を利用するマイクロバイオーム技術はインド国内外で持続可能な農業を促進することとなろう。

持続可能性部門受賞者: プルナナンダ ・グプタサルマ (Purnananda Guptasarma) 教授

インド科学教育研究大学モハリ校のグプタサルマ教授は、一般的なプラスチック汚染物質であるポリエチレンテレフタレート (PET) を酵素を使って分解するという画期的な方法を考えたことで表彰された。現在生産され使用されているPETには持続可能性はなく、動物や人体だけでなく、空気、水、土壌にも世界中でプラスチック汚染やマイクロプラスチック汚染を引き起こしている。実際にリサイクルされている PET は世界中でわずか9%である。

グプタサルマ教授の技術は酵素を使用する。人工の熱安定性酵素と反応を利用して、固体 PET を最小の分子構成要素に分解する。PET は高収率かつ超高純度で分解され、バージン プラスチックにリサイクルできることが証明されている。この実験室での概念実証に基づいて、グプタサルマ教授はPETを分解する酵素試薬と反応の同定と改良をさらに推し進め、パイロット生産ではPET 廃棄物の分解とリサイクルを可能にする最高の酵素を大量に生産しようとしている。

ヘルスケア部門受賞者: アヌラグ・シン・ラソール (Anurag Singh Rathore) 教授

インド工科大学デリー校のラソール教授はヘルスケアの分野を切り開いている。がんや自己免疫疾患を治療するバイオ医薬品の製造コストを削減し、それにより、現在インド国民の 90%にとって手の届かないこれら高価な最先端治療薬への平等なアクセスを確保しようとしている。ラソール教授は、連続処理が可能な最先端の医薬品製造施設を設立した。その施設にはリアルタイムで工程を監視し制御する新しい方法が組み込まれている。

ラソール教授のイノベーションにより、複雑な疾患を治療する最高品質のバイオ医薬品の製造コストが50~75%削減され、医薬品を必要とするインド国民にとって大幅に手頃な価格になり、世界の医療イノベーションの最前線ではインドの地位がさらに高まると予測されている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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