インド理科大学院(IISc)は5月7日、同学の微生物・細胞生物学部門(MCB)が、食中毒の原因となるサルモネラ菌がスペルミジンと呼ばれる物質を利用し、宿主の防御機構から身を守っていることを発見したと伝えた。研究成果は学術誌Redox Biologyに掲載された。
インドでは、サルモネラ菌によって引き起こされる食品媒介性感染症が公衆衛生上の脅威となっている。さらに薬剤耐性菌の出現がこの問題に拍車を掛けている。サルモネラ菌が感染すると、マクロファージがサルモネラ菌を貪食する。マクロファージは、活性酸素種(ROS)と活性窒素種(RNS)を産生することで殺菌活性が増加することが知られている。
今回、MCBのディプシカ・チャクラヴォルティ(Dipshikha Chakravortty)教授の研究チームは、サルモネラ菌がマクロファージ内で酸化ストレスから身を守るため、スペルミジンを用いていることを発見した。スペルミジンは酵素の1種GspSAの発現を特異的に制御することでグルタチオニル(GSH)と強く結合する。この結合体は、細菌のタンパク質と結合し、ROSによる酸化ストレスから細菌を保護している。そのため、スペルミジンの取り込みや生産能力を欠いた変異型サルモネラ菌に感染したマウスの生存率は増加する。チャクラヴォルティ教授は、「サルモネラ菌にとって、スペルミジンは、ROSから身を守るための強力な武器のようなものです」と語った。
これを受けて、研究チームは宿主のスペルミジン濃度を低下させることができる薬剤を探し、FDA認可薬のD, L-α-ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)に注目した。DFMOが宿主のスペルミジン生合成経路に関与するオルニチン脱炭酸酵素を不可逆的にブロックし、そのレベルを低下させることで、細菌を脆弱にするという。MCBの元博士課程学生で論文の筆頭著者であるアビラシュ・ヴィジャイ・ナイール(Abhilash Vijay Nair)氏は「私たちは、宿主の機能を標的にしており、細菌は標的にしていないので、細菌が遺伝的に進化することはありません」と述べた。
今後、研究チームは、スペルミジン合成を制御する未知の因子を探求する予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部