インド工科大学マドラス校(IIT-M)は5月14日、IIT-Mとフランスのパリ・サクレー大学(Université Paris-Saclay)の研究者らが、物理情報ニューラルネットワーク(PINN)を使用して、動く物体を通過する流れを解析する新しいフレームワークを提案したことを発表した。研究結果は学術誌Journal of Fluids and Structuresに掲載された。
PINNは、物理法則を機械に学習させて複雑な物理現象を高精度に予測する方法である。PINNを使うと、一度学習した後はリアルタイムで情報を引き出し、問題に答えることができる。これまでも流体力学の問題を解決するためにPINNが研究されてきたが、羽ばたく翼や泳ぐ魚のような動く物体を扱う研究は少なかった。
流体力学の研究方法には、観察者を特定の位置に固定して流体がその位置を通過する様子を観察する方法である固定オイラー参照枠や、複雑な形や動く物体をコンピューターでシミュレーションする方法である埋め込み境界法(IBM)がある。
今回の研究では、流体の動きをより正確に予測するために、固定オイラー参照枠とPINNを組み合わせて、「移動境界対応標準ナビエ・ストークスベースPINN(MB-PINN)」と「移動境界対応IBMベースPINN(MB-IBM-PINN)」の2種類のモデルが提案された。また、限られた予算とデータでモデルの予測を改善するために、物理学の原理に基づいてデータを慎重に選ぶ方法も提案された。
研究チームは、シミュレーションデータを用いて新しいPINNモデルの有効性を検証したところ、MB-PINNは物体の位置と速度が事前に分かる場合に優れた結果を出し、MB-IBM-PINNは物体の正確な位置や速度が分からない状況で効果があることを発見した。
この研究結果は、PINNが急降下や振動する飛行機の翼の動きを予測したり、生物の動きをまねる機械の設計に役立つと期待されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部