インド工科大学マドラス校(IIT-M)は6月10日、IIT-MとNASAのジェット推進研究所(JPL)の研究者らが、国際宇宙ステーション(ISS)で多剤耐性病原体の研究を行っていることを発表した。研究成果は学術誌Microbiomeに掲載された。
研究者らは、ISS内に見られる一般的な感染症病原体であるエンテロバクター・ブガンデンシス(E. bugandensis)に焦点を当て、多剤耐性病原体において観察されるゲノム、機能、代謝の向上を理解するために包括的な研究を行っている。
研究チームはISS内のさまざまな場所から分離されたE.bugandensisの詳細なゲノムの特徴と潜在的な抗菌剤耐性メカニズムを特定した。この研究により、主要遺伝子の進化と宇宙環境特有のストレス要因に対応する応答が明らかになった。さらに先進的なシステム生物学的アプローチを活用することで、ISSに滞在するE.bugandensisと他の微生物との複雑な相互作用を明らかにし、微生物の増殖ダイナミクスに影響を与える規制関係と共生関係の両方を浮き彫りにした。
本研究を行うワドワニ・スクール・オブ・データサイエンス&AI(WSAI)のデータサイエンス・AI学科のカーティク・ラマン(Karthik Raman)教授は「微生物は、最も困難な条件下で生育することにより、私たちを困惑させます。このような研究は、ユニークな環境における微生物の生育と生存の根底にある複雑な相互作用を解明するのに役立ちます」と述べた。
JPLのシニアリサーチサイエンティストであるカスリ・ヴェンカテスワラン(Kasthuri Venkateswaran)博士は「私たちの研究は、国際宇宙ステーションの不利な条件下で、ある種の善良な微生物が、日和見的なヒト病原体であるE.bugandensisの適応と生存にどのように役立っているかという微生物群衆の相互作用を明らかにしました。この研究で得られた知識は、極限的で隔離された環境における微生物の行動、適応、進化に光を当てるものであり、日和見病原体を根絶するための新たな対策戦略を設計し、宇宙飛行士の健康を守ることにもつながります」と語った。
この研究により、標的を絞った抗菌治療法の開発や、宇宙船や病院のような閉鎖環境における微生物汚染の管理戦略などへの応用が考えられる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部