インド理科大学院(IISc)は4月1日、月面居住施設建設に使用可能な焼結レンガのひび割れをバクテリアで修復する技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Frontiers in Space Technologiesに掲載された。
これまでIISc機械工学科の研究チームは、土壌バクテリアSporosarcina pasteurii(S. pasteurii)を用いて月や火星の土壌シミュラントを用いた建材の開発に取り組んできた。このバクテリアは、尿素とカルシウムから炭酸カルシウムを生成し、水溶性の多糖類であるグアーガムとともに土壌粒子を接着することでレンガのような材料を作り出すことができる。また、研究チームは土壌シミュラントとポリビニルアルコールを圧縮した混合物を超高温で加熱する焼結法により強度の高いレンガの製造にも成功している。しかし、月面環境における極端な温度変化や太陽風により、こうしたレンガにひび割れが生じる懸念が指摘されていた。
研究チームは、ひび割れに対処する方法の検討を行っている。今回の研究では意図的に欠陥を加えた焼結レンガに対し、S. pasteuriiとグアーガム、月の土壌シミュラントからなるスラリーを注入し、数日間の培養を行った。その結果、バクテリアが生成する炭酸カルシウムとバイオポリマーによって欠損部分が充填され、レンガの強度が回復した。実験では、修復後のレンガが100~175℃の温度に耐えることが確認された。
研究を主導したアローク・クマール(Aloke Kumar)准教授は「当初はバクテリアが焼結レンガに付着するか不明でしたが、バクテリアはスラリーを固めるだけでなく、接着もさせることが分かりました」と語った。一方で、S. pasteuriiの地球外環境における挙動には未知の部分もあり、今後の課題として宇宙空間での増殖や炭酸塩生成への影響を挙げている。
研究チームは現在、インドの有人宇宙飛行計画ガガンヤーンにおいて、S. pasteuriiを微小重力下で試験する宇宙実験を計画しており、実現すれば同種バクテリアを用いた初の宇宙実験となる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部