2025年06月
トップ  > インド科学技術ニュース> 2025年06月

神経変性疾患の治療にペプチドミメティクスが有望 インド

インド科学技術省(MoST)は5月20日、科学技術庁(DST)傘下の先端科学技術研究所(IASST)の研究チームが神経栄養因子(ニューロトロフィン)の構造を模倣した合成分子ペプチドミメティクス(peptidomimetics)が神経変性疾患(NDs)の治療に有望であることを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Drug Discovery Todayに掲載された。

アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)などに代表されるNDsは世界的な健康課題となっている。従来、神経細胞の成長や生存に重要な役割を果たす神経栄養因子を活用した治療が期待されてきたが、分解されやすく体内で安定性に欠けることから、臨床応用は限定的であった。

IASSTのアシス・K・ムケルジー(Ashis K. Mukherjee)教授の研究チームは、これらの課題を克服するため、神経栄養因子を模倣し、より安定性が高く、標的受容体への特異性も向上させたペプチドミメティクスに関する研究を行ってきた。この方法で作られた神経栄養因子ペプチドミメティクスは、効果的に脳に到達し、長期間治療効果を維持するとともに、標的受容体への特異性を高めるように設計できるため副作用リスクを低減することが可能となる。

今回の研究では、神経細胞の成長や生存に関わる細胞内シグナル経路を詳細に解析し、ペプチドミメティクスがどのように神経変性を抑制し得るか、そして、NDsへの治療応用に焦点を当てた。また、既存のペプチドミメティクスをがんなどの他の疾患に転用する可能性や、神経栄養因子模倣薬に基づく新薬プロトタイプの開発の可能性についても検討した。

この図は、神経栄養因子のペプチドミメティクスが内因性神経栄養因子の主な課題を克服し、安定性の向上、脳への透過性の改善、免疫原性の低減を実現していることを示す。これにより、神経変性疾患の治療に有望な候補となっている
(出典:PIB)

研究者らはペプチドミメティクスが神経細胞の成長と生存を促進することでNDsを治療できる可能性を強調している。今後研究が進むにつれて、ペプチドミメティクスが重要な治療戦略となり、将来の世代の神経変性疾患の管理と治療に新たな希望をもたらすことが期待される。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る