インド工科大学マドラス校(IIT-M)は5月20日、IIT-Mの研究者らが、超音波画像診断装置に用いられる2種の圧電結晶、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)と鉛マグネシウムニオブ酸塩-チタン酸鉛(PMN-PT)を使用した場合の画像の深度と画質、さらには音響エネルギーの安全性を比較評価した研究を行ったことを発表した。研究成果は学術誌Sage Journalsに掲載された。
超音波画像診断はX線コンピューター断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)と比べて、低コストかつ携帯性が高く、50年以上にわたる臨床使用において生体への安全性が確認されている点から、診断現場で広く用いられている。超音波画像診断における送受信部は圧電結晶で構成されるが、一般的なPZTに比べ、PMN-PTはエネルギー変換効率が高いとされており、近年注目されている。また、超音波画像診断で一般的に用いられるのは従来型集束ビームフォーミング(CFB)技術より画質の良いデータが得られる方法として仮想音源から発散ビームを送信する発散ビーム合成開口送信(DB-SAT)方式が検討されている。
DB-SATは画質が優れているが、画像の深度はCFB技術よりも低いという課題がある。画像深度については入力電圧を増加させることで改善できるが、入力電圧の増加は音響エネルギーの増加につながり、スキャンを受ける人の組織に対する安全性を考慮する必要がある。
本研究は、IIT-Mのアーダヴァン・シーサラマン(Aadavan Seetharaman)氏とアルン・K・ティッタイ(Arun K. Thittai)教授が人体の組織を損傷することなく送達される音響エネルギーの量も考慮に入れながら、PMN-PT結晶とPZT結晶の画像深度と画質を比較した。その結果、音響安全限度内の高電圧入力によってDB-SATの撮像深度の弱点を補えることが確認された。この結果により、システム設計者が画質・深度・安全性・コストのバランスを踏まえた設計が可能になると期待される。
米国のエクソ・イメージング(Exo Imaging)社の副社長であるセシャドリ・スリニヴァサン(Seshadri Srinivasan)博士は「本研究は音響出力測定と画像特性評価手法について明快に解説しています。インド国内でのトランスデューサおよび超音波技術の発展を後押しするものとして期待しています」と評価した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部