インド科学技術省(MoST)は6月19日、傘下のインド宇宙物理学研究所(IIA)の研究者らがへびつかい座にある極端ヘリウム(EHe)星A980の観測により、一価イオン化ゲルマニウム(Ge II)のスペクトル線を検出し、EHe星として初めてその存在量を測定したと発表した。
左上:LS IV -14° 109(既知の低温EHe星)とA980の観測スペクトル比較
左下:HD 173409(既知のHdC星)とA980の(1, 0)C₂バンド領域での観測スペクトル比較
右:A980および他の低温EHe星(LS IV -14° 109、FQ Aqr、LSS 3378)におけるGe IIのλ6021.04 Åおよびλ7049.37 Åのスペクトル線
(出典:PIB)
A980は地球から約2万5800光年離れた場所にある恒星で、当初は水素欠乏炭素星(HdC星)と分類されていた。しかし、IIAがラダックのヒマラヤ・チャンドラ望遠鏡に設置されたハンル・エシェル分光器を用いて詳細観測を行った結果、そのスペクトルが、既知の低温EHe星である「LS IV -14° 109」と類似していることが明らかとなった。
EHe星は極めて稀な天体で、主にヘリウムから成り、炭素・酸素白色矮星とヘリウム白色矮星の合体によって誕生したとされている。研究チームは、A980のスペクトルから波長6021.04Åと7049.37ÅにおいてGe IIの輝線を検出した。これはEHe星で初めて観測された現象である。
「A980の可視スペクトルにGe IIの線を確認したとき、本当に驚きました。これはEHe星におけるゲルマニウムの初検出であり、その存在量を初めて測定できた成果です」と、研究の共著者であり、指導教員としてプロジェクトを支えたガジェンドラ・パンディ(Gajendra Pandey)博士は述べた。
観測結果によれば、A980におけるゲルマニウムの存在量は太陽の8倍に達していた。これは、星内部でs過程(中性子捕獲による元素合成)が進行した可能性を示すものであり、重元素合成の新たな証拠とされる。A980はまた、既知の低温EHe星の中で最も顕著なs過程元素の増強を示した。
研究チームは、A980がAGB(漸近巨星分枝)段階の恒星進化を経て形成された可能性に加え、ソーン・ジコホフ天体(TŻO)の特徴と部分的に一致する点にも注目している。TŻOは中性子星を中心に持ち、別の過程(rp過程)によってゲルマニウムを生成する可能性がある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部